月の詩-1
『昨夜未明、K市にて殺人事件が・・・・』
K市って、うちかよ・・・。
そんな突っ込みを入れつつ朝飯のクロワッサンを頬張る。
夕べ飲み過ぎたせいか、頭が少し痛む。
『殺されたのは同市に住む、会社員浅川 舞さん26歳と・・・。』
浅川 舞・・・?何か聞いたことのある名前・・・。
首を傾げ、記憶の糸を辿る。
あれ・・・?その名前は・・・。
そこで、食べかけたパンを落としそうになる。
おいおい・・・浅川 舞って・・・。
牛乳を一口飲み、慌てて仕事部屋に戻る。
俺、高原 慶介は恋愛小説を書いている。いわゆる小説家。
そんな恋愛小説家の俺がなんで慌てているのか・・・。
「あった・・・!」
引き出しの奥に閉まっておいた未完成小説。
まだ俺が駆け出しの頃、勢いで書いたミステリー小説
ーーー「月の詩」ーーー
結局人の目に触れることはないたった一作、恋愛以外で俺が手掛けたモノ。
その小説で最初に殺された人物が「浅川舞、26歳、会社員」
「偶然・・・だよな。」
そう呟き、久しぶりに見た小説を机の片隅に置いた。
名前・年齢・職業全てが自分の書いた物と一致する。
ごくり、と生唾を飲む。
偶然、そう偶然だろう。
自分に言い聞かせる。
だが嫌な予感は外れることはなかった。
「嘘・・・だろ?」
3日後、俺はテレビの前で呆然とする。
『K市で、連続殺人事件。被害者は同市に住む田口勝さん36歳土木作業員・・・
』
なんだよ、これ・・・。
体に力が入らない。
どくどく、と耳の奥で脈が早くなるのを感じる。
田口勝 36歳 土木作業員
・・・俺が、小説の中で2人目に殺した男。
しかも3日後って・・・。
俺が小説で書いた日と同じ。
こんなことってあるのか?
だけど・・・だけどもし、これが偶然じゃなかったら・・・。
俺は机の上に無造作に置いてあった携帯を取り、ある人物に電話した。
呼び出し音が鳴り、6コール目でそいつは出た。
『よぉ、慶介?お前から掛けてくるなんて珍しいな、どうした?』
「徹、お前今日休みか?」
『?そうだけど・・・どうしたんだよ。』
「今・・・からうちに来られないか?その・・・連続殺人の件で・・・。」
電話越しにも徹が緊張するのを感じる。
『すぐ行く。』
徹・・・矢野 徹は高校の同級生で今は警察に勤めている。
普通に警察に言ったって信じてもらえる確率はほぼ皆無。
それどころか、きっと疑いの目は俺に向けられるだろう。
徹なら、最初の殺人事件があった夜2人で飲んでいたからアリバイがある。
・・・っても2度目のはないけど。