月の詩-5
「貴方が私を忘れるからじゃない。」
抑揚の無い声。
まるで感情を押し殺しているかのような。
「私を書いて後悔してる?こんな猟奇的殺人者、生まなきゃ良かったって。」
恨みを吐き捨てるように言い放つ。
同時に首に掛かる手に力が篭る。
だけど、その瞳はとても寂しそうで・・・。
その時、俺はなんとなくだけどわかったんだ。
月夜は、人を殺したかったわけじゃないんだって。
自分を忘れられてしまうのが怖かったんじゃないかって。
「ごめん。」
なんとか声を絞り出す。
途端、首に掛かっていた力が緩む。
「何それ。私を哀れんでいるの?」
蔑む様な眼差しを向ける。
「ちが・・・っ。」
「なにが違うって言うの?」
冷たくなった瞳で俺を見る。
「俺は、お前を書いたことを後悔しているんじゃない。最後まで書けなかった俺の無力さに嫌気がさしてる。お前に、そんな風に思って欲しかったわけじゃない。俺の無責任のせいで・・・ごめんな・・・。」
ぽたり・・・と自分の頬に雫が落ちてきた。
首にあった手が離れる。
月夜は立ち上がり、俺の仕事部屋に入り『月の詩』を持ってきた。
その手にはライターが握り締められている。
「何して・・・!」
次の瞬間、月夜は本に火をつけた。
「こうするしか、私がこの中に帰る方法はないもの。」
既に、涙の跡はなく残っているのは強い意志を携えた瞳。
「でも・・・っ。」
それでは月夜自体の存在が・・・。
「・・・ねぇ、最期に聞かせて?私は・・・あのまま話が進んでいったら、いつか幸せになれたのかな?エンディングはハッピーエンドだった?」
俺の言葉を遮るように、月夜は質問を投げかけてきた。
「・・・ああ。・・・月夜は幸せな結末を迎えていたよ。」
一瞬の間をおいて、俺は答えた。
「そう・・・ありがとう。」
そう言って、月夜は儚げに微笑んだ。
それが、彼女の最期。
ねぇ、月夜。俺は必ずまたお前を書くよ。
今度は殺人者としてじゃなくて、そうだな俺の得意な恋愛のヒロインにしよう。
その中で、必ずハッピーエンドを迎えさせる。
ねぇ、月夜。だから、だからその日が来るのを待っていて・・・。
〜FIN〜