月の詩-4
「ねぇ・・・続きを書いてよ。」
一瞬だった。
気付いた時には俺の首には彼女の白く長い指が絡まっていた。
「な・・・っ。」
「・・・じゃないと、次は貴方を殺すよ?」
本気だ、と言わんばかりに首に回した手の力を強める。
それは尋常じゃない力。
とても女のものとは思えない・・・。
「う・・・ぐ・・・っ。」
首を絞められ苦しさのあまり意識が遠のく。
俺・・・死ぬのか・・・?
『死』を覚悟した時だった。
携帯の着信音が響き渡る。
きっと徹からだろう。
首に回された手の力が緩む。
「・・・待ってるから。」
俺の苦しむ顔を見て満足したのか、くるりと踵を返し微笑みを湛え闇の中へ消えて行く。
「ごほっ・・・ごほ・・・っ。」
急に酸素が入ってきて俺はむせ返った。
頭がくらくらする。
地面に這い蹲り、必死に呼吸を整えた。
「慶介っ!?」
携帯に出ない俺を心配して迎えに来たのだろう。
「大丈夫か!」
俺は、無言で頷く。
「月夜、に会ったよ。」
目の前には死体。
死体にはCの文字。
徹は瞬時に「月夜」が犯人であることを悟ったらしい。
「そうか。」
そう言うと、署に連絡を入れる。
その後俺も少し聴取をうけたが、俺は周りから見ればたまたま公園で殺人者と居合わせ殺されかけた被害者。
当たり障りないことを言ってそのまま自宅へ帰っていいと言われた。
「本当なら、一緒にいてやりたいんだけど。」
徹に支えられ、俺は家に帰った。
真実を知っている徹は心配してくれたが、事件は徹を休ませはしない。
「もし、何かあったら電話しろ。」
一言残し、徹は警察官としての仕事に戻った。
部屋で一人考える。
このままでいいのか。
月夜に人をどんどん殺させて。
俺は、『月の詩』にそんなことを望んでいたのか?
俺は、最期を考えずこの作品を創っていたことに気付く。
俺は・・・なんて浅はかな人間なんだろう。
俺が・・・月夜を止めないと・・・。
かちゃり・・・ドアノブが静かに回る。
ガラス張りのドアの向こうには黒い人影。
まるで俺の心の葛藤を知っているかのように。
「書く気になった?」
音もなく俺の前に立つ。
「・・・嫌だ。」
月夜の威圧感に負けない様、くっ・・・と唇を噛み締める。
「ふう・・・ん。結構強情なんだ。じゃあ、次のターゲットは貴方でいいわけね。」
感情の無い瞳。
瞬時に先ほどと同じように首を絞める。
ただ、先ほどのように力は篭っていない。
俺が、恐怖に負けるのを待っているのだろうか。
「・・・どうして物語から出てきたんだ?」
俺は月夜に問いかけた。
「どうして?」
表情が歪む。