「缶蹴り」-1
――ある晴れた夏の日――
――カンッ――
僕が蹴り上げた空き缶の音色
――もぉい〜か〜い?――
何もない公園に響きわたる鬼の声
――まぁだだよ〜。――
そう叫び、必死に隠れ場所を探しただ走り続ける僕等
もぉい〜かい?
早く、早くと始まりの合図をせがむ鬼
――まぁだだよー――
気付いたらまだ隠れ場所を見つけてないのは僕と後ろを付いてくる彼女だけ――
「何付いて来てるんだよ相原」
「だって隠れる様な所全部取られちゃって」
そう言ってテヘッ、と彼女は笑った
彼女――相原は基本的に運動オンチしかも成績も下の下、それ故クラスでもあまり親しい奴はいないみたいだった。だから今日みたいに僕等のグループと一緒に遊ぶのは珍しいことだった
「お前がノロイからだろ、バーカ」
そう言い捨てて僕は走り出した・・ちょっと酷かったかな
それでも彼女は僕を追い掛けてきた
僕は振り替えることなく走り続ける――すると背の高い雑草が生えている茂みを見つけた、―ここでいっか―と思ったが彼女が何故か気になる
「お前、どうすんだよ」
息を切らして座り込んでいる彼女に尋ねた
「・・裕也君、そこに隠れるの?・・私も、一緒にいいかな?」
「べ、別にいいけど」
「本当?ありがと〜!」
彼女がとびっきりの笑顔を見せるもんだから思わず僕はドキドキしてしまった
――案外、笑うと可愛いじゃん――
なんて思いながら二人で始まりの合図の言葉を叫んだ
「もぉ〜いいよ〜!」
――しばらくしても鬼はこちらに来る気配が無かった。その間二人でいろいろ語り合った。女子とこんなに話したのは初めてだったかな――元々僕はおとなしい性格で人と話すのは苦手だったから。でも彼女とは素直に接することができ会話も途切れず、このままずっとこうしていられそうな気がする、そう 感じた。
「あっ」
彼女は何かに気付いた様に呟いた
「ヤバッ裕也君、鬼近付いて来た、ヤバイよ!」
ふと視線を前に向けると鬼の男子がこちらを不思議そうに見ながら近付いてきた――話しに夢中で気が付かなかった。
「もしかして声聞こえちゃったかな?」
「かもな」
とにかくこの状況はまずい。
「二人一緒に見つかるより一人は別の所へ隠れたほうがいいな、相原そこにいろよ」
「裕也君はどうするの?」
「なんとかするさ、あそこにある木の陰にでも隠れるよ」
この場を離れようとした瞬間、とっさに彼女は僕の服を掴んできた
「やだっ、一人にしないで・・」
「何言ってんだよ、このままじゃ二人共捕まっちゃうだろ」
「・・一人はもう嫌なの・・」
ギュッと僕の袖を掴む手に力が入る
――どうしたんだ一体?――
「解った。もしお前が捕まっても俺が必ず助けに行くから、絶対一人ぼっちにはさせない。・・それで良いだろ?」
―何かっこつけてんだろ?俺は―
「・・うん、じゃあ約束だよ」
彼女は少し頬を赤らめ左手の小指を差し出す
僕も小指を出し「約束」を交わした