夏の想いで-1
深い森の中…一体どこへ行くんだ。濃い霧のせいで視界が遮られる。
「待ってくれ…」
ピピピッ、ピピピッ…
「はぁ…」
またか。週に一度、必ずこの夢を見る。深い森の中で、淡いブルーのワンピースを着た女性が歩いている。俺はその後を追いかける。すると突然目の前が真っ白な霧に包まれて彼女を見失いそうになる。
「待ってくれ!」
と声をかけると彼女が振り向くのだが、霧のせいでよく見えない。なんとか顔を見ようと目を凝らすのだが…
いつもこの辺りで目が覚めてしまう。あの女性(ヒト)が誰なのか、今でも分からない。いや、多分あの女性なんだろう…。
「おはよう、優太」
駅へ向かう途中、後ろから幼馴染みの亜紀に話しかけられた。彼女とは家が隣りで、家族ぐるみの付き合いがある。幼稚園〜小学校〜中学校と、同じ学校へ通った。高校は俺は公立の共学、亜紀は私立の女子高へ進学した。高3になった今でも、こうして会うことがよくある。まぁ…ご近所さんだからな。
「オーッス」
いつものように軽くあいさつをすると、二人並んで歩き始める。お互いの学校が反対方向だから、乗る電車は違うけど。
「優太の学校、来週から期末試験なんでしょ?調子はどうなの?」
ハキハキとした口調で尋ねてくる。昔から活発で、自分から進んで学級委員をしたり、生徒会の役員を務めたりしていた。身長は165cmぐらいだろうか、中学の時からやっているバレーを今でも続けているらしい。
「まずまずかな…」
昨夜、遅くまで勉強していた俺は寝不足で頭がぼーっとしていた。
「優太なら余裕でしょ?昔からそうだもん。まっ、気楽にね。じゃあね!!」
駅に着いた俺達はホームで別れた。
満員電車に揺られること15分。降りる駅の一つ前の駅に止まった。人がさらに乗り込んで来て、奥の方に押されていく。ふっとホームを見ると、人込みの中からあの夢でみた淡いブルーのワンピースの女性を見た。麦わら帽子を深くかぶっているため、顔がよく見えない。
プシュー、
ドアが閉まり、電車が動き出した。どんどんホームから遠ざかり、あの女性の姿は見えなくなった。
学校に着くと、俺は真っ先に生徒会室に向かう。どうゆうわけか、俺はこの学校の生徒会長をやっているのだ。
鍵を開けて中に入ると、誰もいないはずのこの部屋に間宮先生がいた。
「おはよう。三島優太君」
間宮先生は幼馴染みの亜紀のお姉さんで…俺が想いを寄せる女性でもある。そう、あの夢に出てくる…。
「おはようございます。どうしてこんな所に?」
空気をかえたくて窓を開ける。
「そんなに迷惑そうな顔しなくてもいいじゃない。おめでたい報告があるんだから」
「なんですか?」
嫌な予感がした。
「私結婚するの」
おめでとうございます、とすぐに言える気分ではなかった。一方彼女のほうは、この暑さの中で涼しげな顔をしている。膝丈のワンピースを着ていて、窓から風が入る度に裾がフワリと揺れる。