夏の想いで-2
3年前、俺は自分の気持ちを伝えていた。
幼馴染みの亜紀と一緒にいる時間は、姉の早紀さんもいることが多かった。俺を実の弟のように慕ってくれて、とても優しい人だった。そんな俺を"男"として見てくれるはずもなく。
『優太は私にとって弟みたいな存在だから。私なんかよりもっと優太にふさわしい人が、きっといるはずよ』
彼女はそう言った。
「おめでとうございます」
俺は心にもないことを言った。
「本当にそう思ってるの?」
俺の心を見抜いたようにそう言う。
「まだ私のことが好き?」
ドキッ
「どうしてそんなこと聞くんですか」
冷静を装ってこたえる。
「優太の困った顔が見たかっただけよ。最近すごく大人になったから、意地悪してみたかったの」
楽しそうに笑う彼女の顔を、俺はじっと見つめながら真面目にこたえた。
「好きですよ。たとえあなたが結婚しても、俺の気持ちは変わらない。こんなこと知っても、あなたは困るだけでしょう?」
1限の始まりを知らせるチャイムが鳴り、生徒が廊下を走る足音が響く。
「そうね。お世辞でもうれしいわ。ありがとう」
予想外だったのか、少し戸惑いながら部屋を出て行った。彼女が出て行ったドアをしばらくじっと見ていた。目を閉じてゆっくりと深呼吸をする。
いつの間にか眠っていたらしい。時計はお昼をまわっていた。さっきのことが夢であって欲しい。
生徒会室を出て鍵をかける。
「珍しくサボりですか?」
後ろから話しかけてきたのは、同じクラスで中学からの親友の大輔だ。
「お前のほうこそ、珍しく遅刻か?」
教室へ向かう途中、他愛もない話をする。
「間宮先生結婚するんだってな。昨日の夜亜紀に聞いたんだけど、知ってたか?」
「…あぁ」
そういえば、亜紀は何も言ってなかったな。
いつも通り午後の授業を受ける。冷房の入っていない教室は蒸し暑く、とてもじゃないが勉強に集中できるような環境ではない。にもかかわらず、試験前の授業中に私語をするものは誰もいなかった。
放課後、また生徒会室に来てしまった。朝と同じように鍵を開ける。もしかしたら、また中にいるかもしれない…と少し期待しながら。
その日の夜、俺の家には早紀さんがいた。結婚の報告に来たらしい。
「なんだか寂しくなるなぁ…」
「まったく何言ってんのよお父さん!早紀ちゃん、おめでとう。よかったわねぇ。幸せになるのよ」
両親は自分達の娘のことのように喜んだ。
「式には必ず出席して下さいね。優太くんも一緒に。それじゃ、おじゃましました」
そう言って早紀さんは出て行った。