背徳と嫉妬の間には(二回目の貸出し、初のビデオ報告)-6
そのような方には遅かれ早かれセックスレスが待ち受けている。
いや、ひょっとすると、計画通りに出産を終えたその時点で早々にお役御免となる可能性も高い。
二人の認識と価値観が一致していればまだしも、どちらか一方と擦れが生じた場合、抱え込んだ問題がとてつもなく大きなものだったということにそこで初めて気づくだろう。
満たされないものは互いに外に求めていくしかない。
その後二人は別々の道を歩むか、あるいは仮面をつけた形だけの仮面夫婦として苦悶と共に暮らしていくしかないだろう。
時の流れは否が応でもあらゆるものを変えてしまう。そんな不確定で何も見通せない未来であってもきっぱりと断言できることが一つだけある。
『いま』が永遠に続くことはない。
セックスを美化し過ぎている点も大きな問題だ。綺麗なセックスとはいったい何なんだ? そもそもセックスとは汚いものなのだ。だからこそ生殖器は排泄器と同居している。
もしも綺麗なものであるならば、顔、特に口のなか等に生殖機能が設置されていても良かったはずだし、人体構造的観点から言えば、出産時に『臍』が拡張し、そこからオギャーと産まれる構造になっていたとしてもおかしくはなかった。
しかし創造主はそうはしなかった。
何故だ?
文明を築いたからといって、何も人間が 特別偉いわけでも優れているわけでもない。
視点を変えれば羨ましいほどの能力を持つ多くの生き物たちでこの星は繁栄している。
思い浮かべても切りがないが、どの生態系をとってみても優れた能力に満ち溢れていて、彼らを基準にして見れば、人間は最も下等な生き物にさえ見えてくる。
自身の翼で空を飛ぶことの出来る鳥類。それだけでも驚異だが、鷹や梟などの猛禽類は、優れた耳と眼で500m先の獲物を索敵し、ひと度ロックオンするなり樹木の林立した森のなかを、夜間、日中と変わらぬ猛スピードで自在に駆け抜け、まんまと仕留める。しかもそれを無音、羽音を一切立てずにやってのけるのだ。
人間の世界に置き換えるならば、現時点での人間の叡智の結晶、米空軍F22ジェット戦闘機がそれに近い能力を秘めている。
人間の能力をあらゆる部分で上回っているために、もはやパイロットの力量だけでは操縦すら困難でコンピュータによってすべてが制御されている。
そんなこの機体にひと度狙われたならば、もはや生き残る術はない。
しかし残念ながら、この機体からあの耳をつんざくような騒音が消えることは未来永劫不可能に思えてならない。
皮肉にもこの機体にはラプター(猛禽類) という名前が付けられている。
海に眼を向けてみると、驚異の子孫繁栄システムを持つ種族が浮かぶ。
魚族だ。人間は男性でも女性でも、どちらか一方の性を完全に失った時点で滅亡する。
だが、魚族の一部には性転換のシステムが備わっていて、一方の性が絶滅すると、他方の性のなかで自動的に性転換システムが起動し、選ばれし最も体の大きな個体が僅か三週間程度で完全な性転換を成し遂げるというのだから驚きだ。
大学時代、薬学の研究課題のテーマに仲間とは一線を画した独創的なテーマをいつも選択していた私だったが、そのなかの一つ『海棲生物は不滅の勝者か(究極の子孫繁栄システム)』と題した論文を手掛けていた頃に心が飛んだ。
しかもオス二匹、あるいはメス二匹、たったの二匹だけになったとしてもどちらかが性転換を図るというのだからこれはもう滅びようがない。
そのうえ、このシステム自体は、特段に稀というわけでもなく極普通に広く分布し、特に珊瑚礁エリアにおいては相当数の種類に上る。映画で一躍人気者になったクマノミ等もこの種類に属している。
ひょっとするとやはり私の書いた論文通り、この星の最強にして最後の勝者は、魚族なのかもしれない。なにしろ彼らは、たったの一匹にならない限り滅亡することはないのだから。
こうして考えていくと、人間など馬鹿に見えてくる。ひょっとすると、この星で最も下等な生き物ではないかとさえ思えてくる。
それどころか、人間ほど粗野で下卑た汚らしい動物など他にはいない。
だからこそ、神は神聖なる生殖器を排泄器と同居させたのだ。他の動物と全く同じ動物であることを忘れさせないために。
つまりこの構造は、人間が思い上がった時、ポキンとその鼻をへし折るためにわざわざ神が設けた戒めのようなものではないかと私は考えている。
「凄いわあなた……美香溶けちゃいそう」
ではこの問いかけの最初に戻り、ならば私はお導きに背いているのではなく、付き従っているのではあるまいか。
否、それはやはり違う。もし裏や陰の部分が照らし出されたお導きだとして、それに付き従ったとするならば、人間社会はたちまちの内に秩序を失ない崩壊するだろう。
この矛盾こそが神が人間に与え給うた試練であり、宿命なのだ。そして、この矛盾を抱えている限り、人間は永遠に完璧なものには成り得ない。