嫉妬-3
美香のこの小柄ながらも煽情的な肉体を、この男はやはり易易と膝の上に抱きかかえ、鷲掴みにした彼女の尻を激しく前後に振っていたりしていたのだろうか。
そして時折、眼前で跳ね躍るGカップの巨大な乳房に顔を埋め、握り潰すほどに揉みしだいてみたり、尖り立つ乳首を舌で弾いてみたり、あるいは求められるがままに強く吸い上げたりもしたのだろうか。
そうとも私たちに子どもはいないし、今後もできることはない。そんな不幸な美香の身体を充分に知り尽くしたうえで、この男はそれをいいことに、彼女のぬめぬめとした淫汁滴る狭い膣穴の奥底に、これまでに何百何千回と白濁した種汁を迸しらせてきたのだろうか。
脇田に向かって相変わらず妻の唇が動いている。
真紅のルージュを引かれたセクシーで肉厚な唇。それでいて小じんまりとまとまった上品な口元。その口で美香はこの男のそそり立った淫茎にしゃぶりつき、亀頭部にねっとりと舌を絡ませてみたり、かと思うと根元までずっぽりとくわえ込んでみたり、あるいは先っちょの部分に吸いついたまま、その細くて長い指でしっかりと男茎を握り締め、その手を激しく上下にしごいて一滴残らずザーメンを啜ってあげたりなどもしたのだろうか。
「ねえ、あなた。ねえってばぁ……」
妻のその声でふと私は我に返った。
いつの間にか脇田の姿は消えていて、私は妻と二人で座敷に座って飲んでいたらしい。
おそらくそのとき私は、心のなかに渦巻く淫猥で下卑た妄想を見透かされないようにと、少し酔ったふりをしてごまかしていたに違いない。
しかし、驚いたことに私の股間はパンパンに膨れ上がっていて、テーブルが目隠しの役割を果たしていたことを神に感謝した。
「ねえ、大丈夫?」
「ああ、ごめん、ちょっと酒が回っちゃって。でももう大丈夫さ。あれっ脇田さんは?」
「もうお帰りになりました。まったくもう」そう言って美香は呆れ顔で笑みを作った。「今後のご活躍を向こうでも注目していますよって、きちんとあなたにご挨拶してたじゃないの」
「そうだっけ」
「そうだっけじゃないわよ。じゃあ互いの健闘を讃えてって、乾杯までしてたのよ」
私は苦笑いを浮かべるしかなかった。
脇田とはこれっきりだったが、それから私たち夫婦はそれぞれあちこちに挨拶やらお酌やらで忙しく駆け回り、会は二時間ちょっとぐらいしてお開きとなった。
外は相変わらずの土砂降りだった。しかし、それはそのときの私たち夫婦の心模様をそのまま顕してでもいるかのようだった。
私たち夫婦は、帰りのタクシーに乗り込んだはいいものの、結局帰宅するまでついぞ一言も会話を交わすことはなかった。
私の心のなかで嫉妬の炎が燻り続けていて、そのことを美香も敏感に分かっていたからだ。
こんなときは、そっとしておくにかぎる。美香もその辺のコツはしっかりと心得ていて、無闇に私に構おうとはしてこない。
しかし、それが却って逆に私の癪に障り、私は結局その後もずっと無言のままだった。
私にすれば、おそらくひと言でいいから謝罪して欲しかったのだと思う。
無論彼女が私に対して謝罪する理由など何もないのだが、それでも何かしらの謝罪めいた言葉を彼女の口から聞きたい、という理不尽な願いを抱えていたのは確かだろう。
しかし、謝罪したらしたで、そこに突っ込んでいっただろうことも分かり切ってはいたのだが。
つまりは結局のところ、成す術などあろうはずもない男女間の理不尽で機微な心の衝突に出くわした際は、下手にブラインドは開かないに越したことはないのだ。
夜、私が照明を消してベッドに入ると、いま消したばかりの照明に再び煌煌と明かりが灯り、美香が私の横に滑り込んできた。
これがまた私の癇に障った。せっかく閉じていた心のブラインドを無神経にも妻はフルオープンにしてしまった、というだけの話ではない。
照明を灯すというのは私たちにとってセックスをしようという合図そのものであり、それが二人の好みでもあるからなのだ。
暗い闇のなかでは互いが見えず、悦びを味わいたい、味わせてあげたいと思っていても、しかし相手が見えないというのではなんとももどかしい。
恍惚感や陶酔感、そして達成感や満足感などは喜悦の表情にこそ顕れる。それに加えて与えている快感の度合いや得ている快感の程度は、視覚によっても大きく左右される。
視覚という要素はセックスにおいては特に重要なエッセンスであり、必要不可欠なものだ。
この刺激なくしては悦びはおそらく半減するだろう。それどころか私の場合だと興醒めして戦闘不能、戦線離脱ともなりかねない。
下着に凝ってみたりコスプレの人気が高いのは、単に非現実的な妄想を擬似的に実現したいからということだけでなく、視覚的刺激をそこに求めているからこそなのだろうと思う。
とは言え、さすがにその夜は、美香がどれほどのセクシーなコスチュームを身につけていようと、そうは簡単には切り替えられない気分だった。