投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

母にはなれない
【その他 官能小説】

母にはなれないの最初へ 母にはなれない 1 母にはなれない 3 母にはなれないの最後へ

母にはなれない-2

「じゃいってきます。美沙子、ちゃんと手伝えよ!じゃな。」
「はいはい、いってらっしゃい」
彼の母親がそういって彼を玄関で見送ったあと、彼の母親からはすぅっと笑顔が消えた。
「とりあえず美沙子さん、客間に行きましょう。とても大事なお話があるのよ。」
と無表情で言う。
客間の和室には昔から使っているという大きな飴色の座卓と黒い座布団が四つ。私は下座に座り、彼の両親が前に並んで座った。
気まずい沈黙が流れた。二人共深刻そうな表情をして、うつむいていた。
「お茶でも入れてきましょうか?」
その場を和ませようと思い立ち上がろうとしたが彼の父親に制された。
そして彼の母親が重い口を開いた。
「お茶飲んでいる場合じゃないのよ、美沙子さん。これを見てほしいの。」
と言って、スッと出された写真に私は全身から血の気が引いた。
写真に写っていたのはあの不細工な顔の女だ。この世のすべてを恨むかのような暗い顔で大学の校門に立っている。恐らく大学入学時の記念撮影だろう。
美沙子には見覚えがあった。
「悪いけどうちの家では嫁や婿を入れる時、ちゃんとした身元の方じゃないとだめだから興信所で調べてもらうのよ。
決してあなただけじゃないの。」
彼の父親は腕を組んだまま身動きすらしない。
私は膝においてる手に力が入り汗がにじんできた。
「そうしたら………あなた三年前に整形手術したんですってね。」
重い重い沈黙が私にのしかかる。
唯一目を合わせられるのは写真の中のもう一人の私だけだ。
「ここに200万ある。」
彼の父親が座卓の下から分厚い茶封筒を差し出した。
「あなたには悪いかもしれないけれど、結婚する相手の親にこんな大事な事を隠していた人を賢治のお嫁さんにするわけには……いかないのよ。賢治はこのこと?」
「……いえ、賢治さんは知りません。」
言えるわけがないじゃないか。せっかく綺麗になって幸せになろうって言うのに、こんな事言えるわけないじゃないか。
「わかってるとは思うけど賢治とは別れほしいのよ…今日は普通に過ごすから…今日を過ぎたら必ず別れて欲しいの。」

心に、再びやってきた絶望が顔をだした。やぁ、なにそんな恨めしいそうな顔しているんだよ。
君は僕で僕は君なんだよ?

「お願いね…美沙子さん…どうか200万円受け取ってください」
そう言うと二人で土下座をした。
老いがにじむ二人の背中が必死に私に頼んでいた。
「………わかりましたから。」
200万を手早くカバンに突っ込む。賢治にかってもらったボッテガのカバン。


そのあとのことはよく覚えていない。
おじいさまとおばあさまがいらっしゃったけど二人とも私の事を詳しく知っていたらしく、あまり口を聞いてもらえなかった。
賢治はあちゃーやっぱりぼけちゃったのかなーなんて言っていた。
彼のお母さんは豪華なディナーを作り、いつになく陽気にしゃべり皆に気を使った。
彼の父親はぐいぐいと勢いよく飲み、よく食べたが誰とも目を合わす事なく寡黙に過ごしていた。
しかし、そろそろお開きと言う所でふっと、つぶやくように言った。
「俺はは可愛い孫がほしいんだー。」
賢治はなにいってんだよーまぁ期待しとけーとか言っていたけれど、私の胸には鋭く突き刺さった一言だった。


母にはなれないの最初へ 母にはなれない 1 母にはなれない 3 母にはなれないの最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前