投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

青い薔薇
【SM 官能小説】

青い薔薇の最初へ 青い薔薇 8 青い薔薇 10 青い薔薇の最後へ

青い薔薇-9

…………

エピローグ


ホールのステージで演奏を終えた彼に観客の熱い視線が集中している。どこからか湧き上がった拍手がホール全体に拡がり、どよめきのように響く。観客から伝わってくる感嘆と熱狂の拍手を彼はどんな風に受け止めているのだろうか。

三か月前、彼女のもとに届いた青い薔薇が描かれた封筒。それはヴァイオリンのリサイタルの招待状だった。チラシの中の演奏者の青年は、彼女が主宰するヴァイオリン教室に十年ほど前にいた生徒だった。彼は教えをほどこすには及ばないほどの才能に満ちあふれていた。そして彼が彼女の教室を辞めた一年後、彼は数々の音楽コンクールで賞を取り、ヴァイオリンの天才少年としてマスコミで紹介されたことがあったが、その後、突然、消息を絶った。

《インプロビゼイション……青い薔薇に捧げるヴァイオリンリサイタル》と演奏会は題されていた。青い薔薇という文字に彼女は、彼の指から奏でられるヴァイオリンの響きを感じるとともに、彼の心と身体が自分の中でゆるやかに濃縮されていくような疼きを感じた。
 彼女は演奏会場で目のあたりにした彼がヴァイオリンを弾く姿の美しさに圧倒され、見惚れた。黒い髪を艶やかに波打たせ、深く沈んだ瞳は海の底を思わせ、端正な顔となめらかでしなやかな骨格は、弓を持つ腕から指先まであまりに美しい線を描いていた。
演奏を終え、ヴァイオリンを手にした彼は客席に向かって優雅に微笑みかける。彼女は遠目で彼を見ているというのに、なぜか彼の姿から漂ってくる香りが胸奥に染みわたってくる。それは間違いなく懐かしい青い薔薇の匂いだった。

リサイタルのあと、最後の観客がホールのロビーの扉から帰ったあと、彼女は人影のない演奏会場の外に出た。夏の夜風が心地よく頬を撫でていく。広場の暗闇に立ちすくんだまま夜空を見上げると散りばめられた星がはっきりと見えた。その星のあいだにぼんやりと青い薔薇が浮かび上がる。
夢から覚めたような心と体が濃く、深く、そして遠い記憶の中から甦ってくる。いったい彼は誰だったのかと、ふと考える。頭で考え、心で想う以上に体が無性に彼の影にくすぐられていた。
それは性器の奥深いところに響きわたる彼が弾くヴァイオリンの音だった。遠い彼方に封印された彼女の性が微かにそよぎはじめ、息を切らして濡れてくる。やがてヴァイオリンの音は澄んだ旋律を響かせ、彼女の体の隅々から肉奥にしっとりと滲み入ってくる。
そのとき彼女は思った。彼は、まちがいなく彼女を犯していると……。安息と静寂をもたらす、限りなく無垢に近い青い薔薇の純潔で。

不意に闇が動いたような気がした。ふと我に返り、歩き出そうとしたとき、目の前に黒い影が立っていた。闇に慣れてきた瞳がしだいにその輪郭をはっきりと浮かび上がらせる。
そこには、彼が立っていた。

彼は言った………今夜こそあなたは、ぼくだけの青い薔薇になっていただきますね。十年前、ぼくがあなたを待ち続けていた部屋で……。


青い薔薇の最初へ 青い薔薇 8 青い薔薇 10 青い薔薇の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前