らぶすとぅりぃ*音楽室の壁の穴-1
佐伯和哉は、栞が名前を書き間違えてしまった事に大爆笑をかまし、少しの罪悪感に苛まれていた。
もともと声のでかい和哉が大爆笑をかましたのだから、その笑い声と言ったら防音加工されている音楽室の穴の空いた壁も、他の教室より少し豪華にかつ頑丈に作られている校長室の厚い壁さえも突き通してしまうほどだ。…ちなみに、どうでもいいことだが、音楽室の壁の穴に指を突っ込みたくなるのは私だけだろうか?
《あー…あんなでけぇ声で笑っちまったし、ちょっと悪かったなぁ。自分でも笑ってはいたけど、俺の脇通り過ぎる時めっちゃにらんでたしなぁ…。それにしても、笑い方さんまさんに似てたな。》
和哉は、背中に只ならぬ殺気を感じるような気がしながらも、先ほどの栞の失態を思い出して吹き出しそうになっていた。
「…どうしようかなぁ…。」
和哉は、はぁ、とため息を漏らした。
「あん?どーしたんだ和哉?お前の肌の黒さなら別に気にしなくても大丈夫だぞ?」
すると、和哉の友人御影ハルトが、和哉の前の席にドッカリと腰を下ろして、爽やかな好青年笑顔を振り撒きながら和哉に言った。
「はぁ?黒さなんて微塵も気にしてねーし(むしろコレが俺のミ・リョ・ク・さ☆)。ほら、昨日まで休んでた俺の後ろの…」
和哉が、そっと後ろに目を向ける。
「あぁ、櫻庭…さんだっけ?お前、櫻庭さんが名前間違えた時、いっちばん最初に馬鹿笑いしてたな。鼓膜破れるかと思ったよ。」
ハルトが耳を塞ぐポーズをとる。
「ちょー失礼な奴だって思ったが、まぁ俺も笑っちまったしお互い様だ☆」
だから気にすんじゃねぇと、はははっと笑いながらバンバンと和哉の背中をたたくハルト。ハルトは力の加減というものを知らない(みたいだ)。故に、背中なんて叩かれたら肋骨骨折するんじゃ…いやしたんじゃないか、みたいな激痛が走るようなのだ。
「お…おぉぅ…ハル…、ってぇ〜…」
「ん?どうしたんだ和哉?」
和哉は背中を高速でさすり、少しでも痛みを和らげようと必死だ。が、当のハルトは、和哉の行動の意味を全く察していない。
「んまぁとにかく、さっきも言ったがそんな気にすることないじゃん?別に女子となんてあんま喋んないんだし…」
その言葉を聞いた和哉が、一瞬ハルトを泣きそうな、そう捨てられた子犬のような、はたまた○水○一さんのような表情で見つめてから、頭を垂らして大きなため息を吐いた後、
「それがさぁ…、喋るんだよなぁ…。」
と、何故か意味深みたいなノリで呟いた。
「だって俺とあの子…」
「え?何?」
栞は、パックのスポーツドリンクを飲みながら、自分の席の後ろに座る鷲見に、今言われた大切なこと(かもしれないこと)を聞き返す。
「だぁからぁ、栞は応援委員だから、しっかりやんなさいよって言ってんの!今度は聞こえた?」
ええ、聞こえましたとも!というような頷きを一度見せてから、
「え、えぇぇえ?!」
と、少し大袈裟に驚いてみる栞。
「応援委員?!なんであたしが?つか、応援委員とか普通は男子がやんじゃないの?」
いきなりの委員会決定事項に、少し納得のいかない栞は、またまた少し反抗してみる。
「あたしもそう思ったんだけど、この学校どの委員会も男女一名ずつみたいなのよ。ちなみにあたしは緑化委員♪」
先輩が暇な委員会だって言うから☆と、少しの自慢を含めて鷲見は自分の委員会紹介をした。