恥辱の先に2人はどこへ向かうのか-3
「恵理子……!」
勝気なゆかりが涙を見せるのは、2年生の時の冬、宮寺先輩に失恋して以来だった。昨日あれだけ恥ずかしい目に遭わされても、恵理子と一緒にいる間は、ずっと泣き出したりもしなかった。
けれども今の涙は、あの失恋の時とはまったく質の違うものだ。
「ゆかりちゃん……」
ゆかりは、ただとめどなく泣き続けた。あふれんばかりの涙が、恵理子のニットの白いセーターの胸元を濡らしていく。恵理子は黙って、小さな胸で懸命に泣きすがる友を受け止めた。
彼女もまた罪悪感と悲しみ、そしてゆかりへの同情から涙がこぼれ、2人の少女の涙が混じり合っていく。
それだけの時間が、しばし過ぎていった。ゆかりの震えがいくらか収まり、多少とも落ち着いた様子を見せたとき、恵理子のほうからすまない思いを口にした。
「あの男から聞かされたの。ごめんね、ゆかりちゃん。私のせいであんな目に……」
「恵理子は悪くないよ。悪いのは全部あの沼口じゃないの!!」
「私を許して、くれるの?」
「許すも何もないわよ。恵理子のせいなんかじゃない。ただあいつだけは許せない……!」
自分の顔なんて見たくもないと言われても仕方がないと恵理子は覚悟していた。でも、ゆかりの友情が変わらないでいてくれたことに、彼女はただ安堵するばかりだった。今は親友のすべてを、全力で受け止めなければいけないと決意した。
「恵理子、あたし……」
ゆかりは恵理子から身を離すと、グレーのパーカーを脱ぎ、インナーのTシャツも脱ぎ捨てた。戸惑う恵理子をよそに、淡いピンクのブラジャーが露わになる。そのままジーンズも脱ぎ、下着だけの姿になった。
「お願い、今だけは、こうさせて!」
その姿で、あらためて恵理子の胸に飛び込む。恵理子の華奢なからだは、その激しさを受け止めるのには儚すぎ、そのまま2人はベッドの上にもつれて転がった。
「あ……」
しばし呆然となる恵理子に、ゆかりはそのままからだを預ける。
「今のあたしには、恵理子しかいないの……」
恵理子もまた、親友が求めるのがなにかを承知した。彼女をここまで追い詰めたのは自分のせいだという思いは、まだ消えない。だからこそ彼女の求めに応え、自らのからだを開いて、それを迎えないといけない。そう決めた。
「いいよ……待って」
彼女はいちど身を離すと衣を解き、自身も真っ白なブラジャーとパンティだけの姿になる。
ともに下着姿で見つめあう15歳の乙女ふたり。お互いのからだから、思春期ならではの甘い匂いが立ちこめる。それに誘われるように、どちらからともかく、若いからだを寄せ合った。
昨日沼口に見世物として強いられたのとはまるで違う。昨日のことがあったから、さしたる抵抗を感じることもなかったのは、事実かもしれない。だが互いに心から求め合い、身をゆだねあってのことだ。言葉を交わさずとも、それは理解しあっていた。
2人の少女のやわらかな肌は、呼び合うようにぴったりと密着した。相手のみずみずしさを確かめるように、なめらかに互いの上を滑る。
ゆかりからすれば、沼口に蹂躙され、辱められた自分を、ただ恵理子に癒してほしかった。なお涸れることもない涙が、時折恵理子の肌を濡らす。
心ならずも男を知ることになったゆかりは、一日経った今なお、からだに男の穢れがまとわりついているような気がしてならない。それをどうにか振り払いたかった。そうしたくて、あれから何度もシャワーを浴びたが何も変わらなかった。けれども恵理子のピュアな肢体と交われば、穢されたからだも、少しは浄化されるに違いない。そんな気持ちだった。
触れ合う肌越しに、ゆかりのその思いは痛いほど恵理子にも伝わった。恵理子は細い両腕で傷ついた友のからだを抱き締め、自身の悲哀ともども、友の悲しみも全力で受け止めようと応える。ゆかりの背中を繊細な指先でいたわるように愛撫する。
そのひと撫でごとに、ゆかりはいまだ昨日の辱めで止まらずにいるからだの震えも、少しずつ鎮まっていくように感じた。