裸・身・並・立-1
土曜日になって、ギャラリー・ユピテルに向かう2人の姿があった。案内役は恵理子のはずだが、決然と先を歩くのはゆかりの方だった。恵理子は不安を隠せず、おずおずと彼女の後をついていくばかりだ。
「ここが、ギャラリー・ユピテルってところね」
そして2人は建物の前まで着いた。この1年半にわたって、恵理子を苦しめ続けた場所にほかならない。決意を固めたゆかりは、率先して階段を上っていく。
「いや、よく来てくれたね」
沼口は歓迎の意を表して2人を迎えた。
「この子が松谷……ゆかりちゃん。私の友達です」
おずおずとした口調で、恵理子は紹介する。沼口の顔もゆかりの顔もまともに見ることができず、視線は焦点を結ばないまま宙をさまよっていた。
「やっぱり、なかなか可愛い子じゃないか」
そう言って、沼口は嘗め回すような視線でゆかりの全身を見渡す。恵理子を通して求めたように、ゆかりは卒業後にもかかわらず瀬山中の制服を着てきた。恵理子よりやや背が高いうえ、からだのボリュームも明らかに違うことは、服を着ていても十分にわかった。
「恵理子から聞きました。沼口さんですね。あたしが松谷ゆかりです」
すでに欲情を帯びた沼口の視線を跳ね返すように、ゆかりは毅然とした目で見返して言う。本当は「さん」などと付けたくもないような調子だった。
その勝気なまなざしを返されても、沼口はむしろ笑みを浮かべて、2人を中へと通した。ギャラリーの奥へ案内すると、すでにスクリーンやPC、プロジェクタなどの機材はスタンバイされていた。
「まず、これを見てもらおうか」
そう言って機材を操作し、指差したスクリーンに映像を映し出す。
「やめて!」
それを見るなり恵理子は頬を染め、顔を覆った。そこには彼女の下着だけの姿が映し出されていた。今までさんざん沼口の前に晒させられ、撮影されてきたとはいえ、こうやって別の誰かに見せられるのは初めてだった。それがいくら親友のゆかりでも、恥ずかしくてたまらない。
すぐにその画像は送られ、恵理子の一糸まとわぬ姿が現れる。
「な、なにこれ……」
それを目の当たりにしたゆかりは唖然となった。すでに話では恵理子から聞いていたが、彼女はこんな姿にされ、写真に撮られてきたのか。恥じらう恵理子への憐れみと、この沼口という男の非道さへの怒りが湧き起こってくる。
「ひ、ひどい!」
そんなゆかりの気持ちを愚弄するように、沼口はリモコンを操作して、別の写真を送る。これまた恵理子の全裸姿だ。思い返せばさっきの恵理子の下腹部には薄いながら黒い翳りがあったが、今のではツルツルで、陰裂がむき出しになっている。
ゆかりには、それで思い当たることがあった。修学旅行でクラスメートたちと一緒にお風呂に入ったときのことだ。恵理子の陰部には毛がなかった。それがクラスメートたちの注目の的にもなった。だがゆかりも含めて他の女子たちは、彼女が奥手でまだ発毛していないのか、あるいは生まれつきの無毛症なのかと思っていた。だが本当は、沼口に剃られたからだったのか。いよいよその非道な仕打ちに憤りがこみあげてくる。
「どうかな? 君の親友ってほんと、綺麗なんだよな」
「そういう問題じゃないでしょ!」
沼口はリモコンで画像を繰り、ゆかりの憤怒をさらに煽るようなものを見せる。絶対に実用に耐えないような透明の水着を着せられ、乳首も性器も透けている写真。制服姿でスカートをたくし上げ、無毛のワレメを晒した写真。その他、恵理子の恥ずかしい姿をとらえた写真が次から次へと出てくる。
あまつさえ、恵理子が自身の手で秘貝を広げ―広げさせられ―、性器の奥を晒している画像まで現れた。
「だめ、見ないで、ゆかりちゃん!」
恵理子もどうしても気になって、つい目を開けてスクリーンを見やったところ飛び込んできたものがそれだった。うろたえて、思わず飛び出して自身のからだで映像を遮ろうとした。だがそんなことをしたために、そのまま自身のからだに恥ずかしい像が映写される事態が生じてしまう。折悪しくこの日に恵理子が着てきた私服が白系だったから、なおさらはっきり映る。しかも、彼女のいちばん恥ずかしい部分が。
「おいおい、これは傑作じゃないか」
沼口は大笑いした。すぐ手元にスマホもカメラを用意しておらず、この思いがけず生じたシュールな瞬間を撮れないことを残念がったぐらいだ。
恵理子は愕然となり、その場にうずくまった。
「さ、最低!!」
親友のためにも、ゆかりはその映像からは視線をそらしていたが、心中の怒りはいよいよ煮えたぎってくる。
「あ、言っておくとその娘はまだ処女だ。一切そういうことはしてないから、それだけは保証する」
ようやくにしてスライドショーを終え、プロジェクタの電源を落とした沼口はゆかりに念を押すように言う。
「だからって、こんなの許されることじゃないでしょ! 恵理子がどんな思いをしたと思ってるの?これ以上、恵理子に恥ずかしい思いをさせるのはやめて!」
いまだ恥じらいに震える恵理子に寄り添いながら、ゆかりは厳しく詰る。だが沼口はなんら動じる様子を見せない。暗い笑みを浮かべた顔で、切り出す。
「さて、これからが本題だ」