裸・身・並・立-2
あらためて沼口の方を向いて身構えるゆかりに、告げる。
「ゆかりちゃん、ここで君も、服を脱いでもらおうかな」
「ふざけないでよ! いったい何のつもり?」
糾弾に臆するそぶりすらせず、それどころか自身にまで理不尽な要求を突き付けてきた沼口に、ゆかりはいよいよ怒りを露わにする。だが沼口は不敵に脅しをかける。
「言う通りにしなかったら、今まで見せた写真、これからネットにばら撒くよ。君の親友の裸が、世界中の人たちに見られちゃうけどいいのかな?」
「なんて卑怯な……!」
ゆかりは拳を握りしめ、わなわなと身を震わせた。そんなことをされたら、恵理子の人生がそれこそ終わってしまう。
かといって、親友を人質に取られたようなものだとはいえ、こんないやらしげな中年男の前で思春期ただなかの少女がおいそれと服を脱げるわけがない。
その一方で恵理子は、どうすることも出来ず、ただ対峙する二人を不安に怯えながら交互に見やるだけだった。
「さあ、どうする?」
沼口は距離を詰め、回答をゆかりに迫ってきた。
その時、ゆかりは意を決して、沼口が離れた、PCが置かれたテーブルのところに走った。
「このパソコンの中に、恵理子の恥ずかしい写真が入ってるんでしょ?」
ゆかりはノートPCを持ち上げ、床に叩きつけようとした。これさえ破壊すれば、恵理子は沼口の呪縛から解放されると思ったのだ。
だが沼口は動じた様子も見せない。それどころか笑い出した。
「あははは、無駄だって。そのパソコンを壊したって、データはいくらでも他の場所にバックアップしてあるからね」
ほとんど諭すような口調で、PCを持ち上げたままのゆかりに近づきながら言う。
「だいたい、君はクラウドってものを知らないのかな。データはそっくりネット上に上げてあるから、端末をいくら壊したって何の意味も無いんだよ」
小娘の浅知恵としか言いようがないゆかりのやり方、まだ中学を卒業したばかりでは無理もないがパソコン知識の乏しさに、沼口は呆れた表情を浮かべるだけだった。
「あ、まだ公開したわけじゃないよ。俺しか閲覧できないからね」
ネット上という言葉を聞いて狼狽の表情を見せる恵理子の方を向いて、こう念を押しておいた。
そうして、悔しさをにじませるゆかりのところまで来ると、ノートPCを強引に奪い返した。
「もし壊しでもしたら、からだで弁償してもらうつもりだったけどね」
PCをテーブルに置くと、ゆかりの両肩を挟み付けるように捕らえ、力任せに壁に圧しつけた。
ゆかりは逃れようと懸命に身をもがいたが、まるで抗うべくもない。空しく全身を揺するのみだ。
中学校3年間バレーボールを続けてきたゆかりは、恵理子よりはずっと体格も体力も優る。だがそのゆかりも、屈強な沼口の前ではいとも簡単にねじ伏せられた。ここにいたって非力な恵理子が加わったところでどうにかなるわけがない。
小娘2人でかかったところで、沼口の前では物の数でもないことは、恵理子もゆかりも思い知らざるを得なかった。
沼口は勝ち誇るような表情を浮かべ、ゆかりを突き放すようにして離れると、あらためて彼女に問い詰める。
「さあ、わかったら、今すぐ、おとなしく服を脱ぐんだな。それとも、親友を破滅させるか?」
そう迫られても、浅知恵を思い知らされたうえに力でねじ伏せられた屈辱と恥ずかしさで、ゆかりはすぐに脱ぐことはできない。
それを見かねた恵理子は、思い余ってゆかりに訴える。
「ゆかりちゃん、逃げて! もう私のことなんか構わなくていいから!」
恵理子は、今さらのようにゆかりをここに連れてきたこと、いや、事をゆかりに話したことを悔やんだ。この後何があっても、自分のせいでゆかりまで屈辱的な目に遭わせることだけは避けたかった。
だが、涙のこぼれそうな彼女の目と合うと、ゆかりもまた彼女を置いて逃げることはできなかった。
「何言ってるの。今あたしが逃げたら、恵理子の人生が終わるんだよ!」
ついにゆかりは、沼口の脅迫に屈して服に手をかけた。制服のブレザーのボタンを一つひとつ、外し始めた。
「いやいや、美しい友情だねえ。大好きだよ、こういうの」
沼口はにやりと笑いながら、少女たちのやりとりを見つめていた。
「ゆかりちゃん、やめて! もういいよ!」
なおも制止しようとする恵理子にもかかわらず、ゆかりはブレザーを取り、リボンを抜き、ブラウスを脱いで上半身ブラジャーだけの姿になる。制服のプリーツスカートもソックスも外して、ついに下着だけの姿を晒した。
淡いパープルのブラとショーツだ。白を沼口から強制されている恵理子とは違うが、15歳の少女が身につけるものとして、さして珍しいものではない。
ゆかりは恥ずかしさに震えつつも、これは親友を助けるためだと、なお勝気な表情を崩そうとはしなかった。
下着姿を晒した親友を目の当たりにして泣き出しそうな恵理子に、沼口は言いつける。
「さて恵理子ちゃん、君も脱ぐんだな」
ただでさえ、沼口に脱げと迫られれば拒むことのできない恵理子だ。だがこうなってしまっては、自分のせいで恥ずかしい姿を晒させられた親友のゆかりと、運命を共にするしかないと観念した。
震える手で脱ぎ、飾り気ひとつない、純白のブラジャーとパンティだけの姿になる。脱いだ服を丁寧に畳むと向き直り、ゆかりの横に立った。