卒業式とスライドショーと次なる求め-3
ともあれ、ようやく次の画像に送られ、制服姿に変わっても、いまだ恥ずかしさの震えは止まらない。その後に出てきた下着姿、さらにはパンティを秘裂に食い込まされた姿態や下着だけでベッドに横たわる姿なども、それ自体ではすこぶる恥ずかしい写真ではあったが、先のものに比べるとずっとましに思えたぐらいだ。
ギャラリーにも飾られていたようなコスプレ姿や水着姿の写真も次々と出てくる。一枚送られるたびに、もっと恥ずかしい写真が出てこないかと彼女は気に病むばかりだった。着衣の写真であれば、たとえ下着だけであっても、胸をなでおろしたほどだ。
やはり、当然のように全裸の写真はたびたび挟まれる。そのたびに恵理子は悲鳴をあげ、顔をそむけようとしたが、繰り返し沼口に向き直らされてしまう。
そして、この間の卒業記念撮影。初めての頃に比べれば、いくらかでも大人に近づいた裸身で、結ばれた。恥辱の日々を振り返らされる悪夢のショータイムは、ようやく終わった。
卒業式の時に振り返った学校での思い出よりも、ずっと重くのしかかるもの。もし万一ここで沼口から解放されるようなことがあったとしても、絶対に一生消え去ることのない心への爪痕となるものに違いなかった。
「どうだったかな。この1年半の総決算ってところだ。想い出がいっぱい、だな」
昔、そういう題名の流行歌があった。というか、奇しくも卒業少し前の音楽の授業で、恵理子はその曲をクラスの合唱で歌っていた。その事情は沼口も知りはしないが、ずいぶん酷い言葉の使い方をしてくれるものだと、恵理子は恨めしくも感じた。
また最初から見せられないかと怖くなったが、ともかくも沼口が明かりをつけ、プロジェクタの電源を切ったことで、ともかくもこれでおしまいだとわかって安堵した。もしもう一巡見ることを強制されたら、本当に気が狂ってしまうかもしれないとさえ彼女は思った。
「さて、せっかくだから、卒業アルバムも見せてくれ」
今さら何を言うのか、恥辱のショーを見させられ、心身ともにすり減らされた恵理子に、こんなことを求める。
「はい……」
虚ろな気持ちのまま、恵理子は鞄からアルバムを取り出し、開いた。彼女にとっても学校から渡されたままで、ここで最初に開くことになる。本当なら、まずは家族と一緒に繙きたかった。
まずは彼女が在籍していた、3年A組のページを開く。集合写真を真ん中に、それを囲むように生徒たちの個人写真が配置されていた。恵理子の写真は、集合写真のちょうど右横にあった。先に見つけたのは沼口だった。
「へえ、やっぱり可愛いんだな」
沼口はそう言いつつ、この機会にとばかり、他の女子生徒たちの写真も見回していた。思春期の少女が大好きな彼だ。恵理子の他にも可愛い子はいないのかと、興味を示したのかもしれない。あくまで写真とはいえ、クラスメートたちまで沼口のいやらしい視線に晒してしまったことを、恵理子は申し訳なく思いもした。他のクラスのページも覗いては、
「この子もなかなか可愛いな」などと品定めをしてきた。
「やっぱり、この学年で最高の美少女は文句なしに君だな。ダントツだよ」
恵理子の顔とアルバムに写った他の女生徒たちの顔とを見比べつつ言うと、沼口は他のページも開いていく。
アルバムの中身を見るのは恵理子もこれが初めてだから、あとは部活ページの美術部の写真のほかで、自身がどこに写っているのかはまだ確認していない。沼口ともども、3年間の学校生活の場面を載せたページを繰りつつ、彼女自身の姿を探すことになる。
文化祭と修学旅行の時、2年の遠足の時など、何枚かの写真に恵理子は写っていた。「あ、これこれ」などと、沼口の方が先に気づいて指摘することもあった。控えめな彼女は積極的に写真に写ろうとはしないからか、それほど多くはない。あっても端の方に入っているものがたいていだ。
「まったくカメラマンもセンス無いよな。学校一の美少女をセンターにして撮らないなんて」
沼口はそんなことも口にする。とはいえさっきまでの恥ずかしいスライドショーに比べると、なんとも平和な光景だ。だが、これまで沼口の手が及んではいなかった学校生活の中に、卒業してからとはいえついに彼を立ち入らせてしまったような気がして、大切なものを汚されたような気までした。
そうしてアルバムを一通り見終わると、沼口はさらに求めた。
「せっかくだから、卒業式の様子も見せてくれ」
そう言って、沼口は恵理子のスマホを差し出させた。今日撮ったばかりの卒業式の写真を繰りながら閲覧していく。美少女の中学時代最後の晴れ姿が次々と目に入る。
「へえ、卒業生総代だったのか。さすがは優等生だな」
感心して彼女が答辞を読み上げる姿に見入り、さらに写真を繰っていくうちに、別の少女とツーショットで撮った写真が何枚も続く。
「この子と仲良しなんだな。なかなか可愛いじゃないか。美少女は美少女を呼ぶみたいだ」
仲良く一緒に写っている友達の姿を見て、沼口は口にする。そして卒業アルバムの3Aのページを改めて開いた。
「この、松谷ゆかりって子か?」
「そうです……」
恵理子は何気なく答えた。次に沼口が何を求めてくるか、このときは予想もしていなかった。
「じゃあ、この子も俺のところに連れてきてくれないか?」