団地にひそんでいたもの-1
梅雨が明け、団地の中の公園に夏の花が日の光を浴びて輝いた。
私はスマホのカメラを花の息吹きが感じられる所まで近づけ、次々と撮影していった。
(妻も生きていれば、こんな画像を撮影していただろうな……)などと思いながら。
そんな私に「爺ちゃん!」と声をかける女がいた。
振り返ると夏に似合わぬ長袖のジャージをだらしなく着た、髪を水色に染めた朝理(あさり)が立っていた。
朝理は同じ団地に住む、そろそろハタチになる女だ。
だが、彼女は中学を出てから進学も仕事もせず、しょっちゅう姿を見かける。
そんなだらしない生活を送ってはいるが、日ごろから忙しい親に代わって家事をしたり、団地の住民活動に積極的に加わったりしてるので、特に奥様連中からの評判が高い。
だが、私には朝理のようなナメきった人生を送っている女は性に合わない。
「おお、爺ちゃん。いい画像撮ってるね。」
「……爺ちゃん、はやめろ。」
「いいでしょ。爺ちゃん、もう七十なんだもん……それより、どんなの撮ったのか見せてよ。」
(’まだ’七十だ!)と心の中で怒鳴りながらも、私はスマホの画像を朝理に見せた。
「へぇ、すごい!キレイ!爺ちゃんすごい視点してるね。」
(お前とは違うよ……)と心の中でつぶやいていると、朝理はスマホを示しながら言った。
「爺ちゃん、これで女の子をトーサツとかしたことないの?」
「お前はバカか?私をそのへんの変態といっしょにするな!」
思わず大きな声が出た。しかし朝理はヘラヘラ笑いながら、
「でもさ、爺ちゃんみたいにマジメ一本できた人が、スマホ持つとトーサツに夢中になってしまうんだよ。」と言うと「ちょっと、これ貸してね。」と、私のスマホを持って近くの植え込みに入りこんだ。
あっけにとられていると「お待たせー」1分ほどして朝理が出てきた。朝理は私にスマホを返すと「あとで画像見てね。爺ちゃんとアタシだけの内緒だよ。」と言って去っていった。