彼女に課せられた掟とはなにか-3
沼口は告げる。
「今日はこのまま帰っていいよ。でももちろん今日のことは、誰にも言うなよ。それから、今後俺の呼び出しにはいつも応じることだ。従わなかったら今日撮った写真はネットに晒す。いいな」
それが犯罪であることは恵理子も知っている。だが、たとえそれで児童ポルノ禁止法違反として沼口が逮捕されたところで、一旦インターネットに流出した写真は、まず永久に消えることがない。ネットの情報はいつまでも残るものだから、発信にはくれぐれも気をつけるように。学校のコンピュータの授業で習ったことが、こんなところで思い出されてくる。
もし裸写真が拡散されでもしたら、まだ中学生なのに、その時点で女性として終わりだろう。世の中のどこの誰に、裸を晒した女として見られるとも知れたものではない。大人になってからも、恥ずかしい過去を掘り起こされて勤め先にいられなくなるかもしれないし、こんなことが知れたら、誰とも結婚できなくなるに違いない。そんな忌まわしい未来が目に浮かぶ。
「なんなら、写真を君のご両親に送りつけて、公開するぞって脅すことだってできる」
今まで大事に育ててくれた両親の愛情は一身に感じている恵理子だ。もしそんなことをされたら、間違いなく父も母も沼口の言いなりにされるだろうとは、容易に予想できた。たとえ私のことはどうなってもいいと、彼女が止めたとしても変わらないだろう。大切な両親まで巻き込むこのシナリオの方が、少女にはさらに恐ろしいようにも思えた。
「やめてください! それだけは絶対に……」
そうされないために、これからずっと沼口に運命を握られるのかと思うと、気が重くなる。そんな恵理子に、沼口はさらに守るべき務めを言い渡す。
「俺以外の男に処女を渡すのは、何があっても許さない。呼び出すたびに、検査させてもらう」
「はい……」
恵理子は、今までだってもし好きな人と付き合えたとしても、中学生のうちから、いや高校生になっても身体の関係を持つなんて考えたこともない清純な娘だった。言われるまでもないことだったが、沼口のためだけに純潔を守らされるというのはやはり屈辱でしかない。そしてこれからも毎回、性器を検査される辱めも受けなければならなくなるのだろう。
「当たり前だが、下着は上下とも中学生らしく、白に限る」
まるでブラックな学校の校則のようだ。恵理子の通う瀬山中学校に、もちろんそんな無茶苦茶な校則はない。服装や髪型の規制はそれなりにあったし、優等生の彼女は忠実に守っていたが、下着検査などという露骨なセクハラ行為はあるわけもなかった。
下着でお洒落をしようなんて彼女はまだ考えたこともなかったが、母親が買い与えてくれた下着には淡いピンクや水色のものもある。それぐらいは中学生でも別に珍しくもないが、着けるのを許されなくなったのだ。
「それから大事なことを言うよ。絶対に陰毛は禁止。あそこはいつもツルツルにしておくことだ。それが清純な少女の務めってものだからね。これも毎回検査するから、一本でも生えてたら、その時も違反として写真をネットに晒したうえ、今度こそ頂くよ」
「は、はい……」
こんなことまで言い渡されると、ようやく恵理子は帰ることを許された。
ちなみに、沼口はもう一つ、自慰禁止まで言い渡そうとも思っていたのだが、清純すぎてあまりにも性知識が無さそうなこの娘は、まだそれを知ってすらいないと確信した。実際そうなのだが、なまじ禁止の話をしたらかえってそういう行為を覚えてしまいそうな気がして、やめたのであった。それに、こればかりはいくら禁止しても、確かめることは困難なのだから。