遠い日の記憶-2
俺は答えられなかった。
地位や名誉のためなのではないか、と言うのはあまりにも残酷だったから。
それを認めてしまったら、俺たちは国の地位と名誉のために命を落とし、そのために人殺しという罪を一生背負っていかなければいけないことになってしまうから。
どうして俺たちは戦わなきゃいけない?
どうして俺たちは殺しあわなきゃいけない?
ひとくくりに、国のため?
敵に直接の恨みなんて何もない。
敵にだってない筈だ。
なのに、俺たちは国のため国のためって命を張る。
…とんでもない馬鹿野郎だよ…。
「朝霧ぃッ!!」
六堂さんが、すごい形相で迫ってくる。
被っていたメットが落ちても、六堂さんは気にしなかった。
伸び始めた坊主頭が露わになって、白い頭皮が光って見えた。
「伏せろ!」
そう言うか否か、六堂さんが俺に覆い被さるかのように倒れ込んできた。
「六堂さ…」
遠くに見えた、こちらに向かってくる物。
他の仲間も逃げ惑い、叫び狂っている。
「ちょっ…六堂さん!」
俺に覆い被さったまま、六堂さんは動こうとしない。
「そんなっ…、六堂さんが…」
「俺は、友の死さえも何とも思わねぇ奴に成り下がっちまった…。」
耳元で、掠れた声が微かに聞こえる。
「最期ぐれぇ、部下を守った格好いい男で死なせろや…。」
あの、六堂さん独特の鼻で笑う声が、少しだけ、震えているように聞こえた。
「六ど‥」
ッ‥ドォォオオン…
目映いばかりの閃光で目が眩む。
それはほんの一瞬の出来事だった。
爆音がしたと思ったら、ものすごい風圧。
身体が熱くて燃えてしまいそうだ。
辺りが、静寂に包まれる。
恐る恐る目を開けようと試みる。が、左目がどうしても開かない。
右目だけに映る空。
起き上がろうと、腹と腕に力を入れるが、左腕にだけ力が入らなくて、そのまま左に倒れ込んでしまった。
その時見た、『左』側の光景。
惨劇なんてものじゃない。
地獄絵図そのものだ。
どさっ
何かが俺から落ちた。
「‥!ろ…」
見るに耐えない無惨な姿をした六堂さんが、そこにはいた。
右半分は、俺を庇っていたせいで面影すらも残っていないほど真っ黒だ。