『あなたの海』-1
「ほら、そんなに泣くものではないよ。」
出掛けに私にそう言った、あの人の声は優しかった。
昭和は17年 月は6月
空母『赤城』
戦艦『榛名』…
お国のために、あなたを失わなければならないのなら、
私はお国を恨みましょう
はっきりとそう言葉にしたところで、あなたを困らせるだけだという事は痛い程、分かっていたから。
涙と一緒にのんだけれど。
のみ切れなかった涙が溢れてくるのを見て、あなたはそう言ったのでしたね。
そう言って、
『行ってきます。』
ただの一言、残して。
列車に乗って行ったのでしたね。
旗を振るなんて事、私には到底出来ないと思っていたけれど、いざとなればもう、それは半ばヤケを起こしていたのです。
ただがむしゃらに振って、降り続けて。
列車が見えなくなるまで…。
あなたは嘘が嫌いな人だったから、
『必ず帰って来るよ』
とは言わなかった。
ただ泣くなとそう言って、いつもとそう変わらぬふりをして、あの青い波の上の戦場へと…
青い青い、青い海。
そしてあなたは今なお28のままで。