バニラプリン‐主編‐-1
昨晩は急に雨風が強くなり、珍しく雷鳴が響いていた。
眠りづらい夜だったが、目が覚めた時には雨音もなく、窓から注がれるやわらかい日差しが今日の始まりを告げていた。
「…うそ…これって、あたし…?」
鏡に映っているのは間違いなく?自分?であるが、?あたし?ではなかった。
まだ、震えが止まらない。
これでバニラプリンと呼ばれていたこの商品を返品する事が出来なくなった。
いや、そんな事はもうどうだっていい。
今のあたしにそんな事を考えられる程の冷静さなど無かったのだ。
(とにかく、学校に行かなくちゃ…)
あたしは本当に美人になってしまった。
どれくらいキレイになったのか上手く説明出来ない。
ただ、昨日までよりキレイなのは確かである。
頬骨が薄くなっているようで、顎が何となくシャープに…。
おまけに目が少し大きくなっているような気がする。
あたしは朝食をとるために一階に下り、ダイニングへと向かった。
きっと母は今のあたしを見て仰天するだろう。
少なくとも動揺を隠せないはずだ。
だが…彼女の反応は意外にもあたしの予想を裏切った。
「あら、香織。朝御飯出来てるわよ。早く食べて学校行きなさい」
そう。あたしの名前は香織。姓は高山という。
ところで、何も気づいていない母に疑念を抱きながらも、手早く朝食を済ませたあたしはいつも通り学校へ向かった。
途中で鞄から手鏡を取り出し、自分の顔をもう一度確認してみる。
(やっぱり昨日までとは違う)
いや、変わったのは顔だけではないようだ。
体が少し軽くなったような気がする。
何よりも脚が弾むように軽快なのだ。
ひょっとしたらハイヒールも似合うかも…なんて思いながら歩いているうちに学校に到着し、教室へ向かう。
「おはよー、香織」
廊下で友達に声をかけられたので、早速だが訊いてみた。
「ねぇ、今日のあたしどう? なんかヘンじゃない?」
すると
「キレイだよ。すっごく! 相変わらずだけど」
「…え…それってお世辞とかじゃないの?」
「ううん。フツーに可愛いと思ってるよ、羨ましいくらい…。けど、どうしたの?」
いつもならこんな事を言う友達ではなかった。
いや、というより、今まで誰一人としてそんな事言ってくれなかった。