光の風 〈聖地篇〉-5
「千羅。」
呼ばれた千羅は、直ぐ様ジンロの横に現れた。カルサの時とは違い、立ったまま何用か問う。
「何でしょう?」
「お前も冷たいな。」
千羅は何くわぬ顔で、分かってるでしょうにと返した。分かっている、ジンロの立場は彼らからしてみれば決して良いものではない。
ジンロはため息を吐きながら頭をかいた。分かっていてももどかしい。
「フェスラの件、あれは明らかに目覚めだった。しかしあれ以降、まったく動きがない。」
二人の間に緊張が走った。ジンロは千羅の反応を待たず話を続けた。
「カルサに伝えてくれ、オレはお前一人にやらせる気はないと。」
ジンロの目はまっすぐ千羅に向けられる。千羅は少し目を細め、その場から姿を消した。
ジンロはまたもや取り残され、無気力な瞳で風に舞う葉を追った。
そしてカルサが消えた方向を見つめる。
「だ、そうですよ。皇子。」
先程の一部始終を歩きながら千羅はカルサに報告をした。カルサは関心がないのか、適当な相づちをうった。
千羅はそんな彼に制裁を入れるため、頭を軽くこついだ。
「って!なんだよ!」
「もっと興味を持て!話がいがまるでない!」
千羅はふてくされながらカルサに詰め寄る。カルサは一言文句を呟くと、それをかわし歩き始めた。
千羅は後ろから吐き出すように投げかける。
「久々の守麗王との会話はどうだった?」
千羅の言葉にカルサは足を止め、睨んだ。
「からかうな、千羅!」
怒りが見える瞳、しかし千羅はあっさり受け流した。そして近付いていく。
「ガキ。もっと余裕を持てよ。何の為にオレがいるんだ?」
カルサの頭の中はぐるぐる色んな事がめぐっていた。ここではシードゥルサ国王カルサ・トルナスは存在しない。その事で戸惑いがあるのだろうか。
カルサは複雑な表情で呟く。
「ここは好きじゃない。」
ラファルが不安を取り除くように体をすり寄せる。
分かっている、前に進むために訪れることを選んだのは自分。気持ちが乱れるのは弱さがある証拠。
カルサは両手で顔を覆い、深い呼吸をした。ゆっくりと息を吐く。
手を外し空を仰いだ。体が弓なりに反る。
「悪かった。気持ちを切り替える。」
カルサは先程までと変わり、すがすがしい笑顔で千羅を見た。余裕がある。