光の風 〈聖地篇〉-25
「ここは貴方達の帰る場所。いつでも戻ってきなさい、部屋もあのままにしておきます。」
「ありがとうございます、守麗王様。」
再びリュナの言葉にあわせてカルサは頷いた。片膝つき、俯いたまま誰とも目を合わせようとはしない。
「気を付けて帰りなさい。カルサ・トルナス、リュナ・ウィルサ。」
「ありがとうございます。」
カルサは頭を下げ答えた。リュナも続く。
二人はラファルを連れ、宮殿をあとにした。名残惜しそうに辺りの景色を見ながらリュナは歩いていく。時にラファルとはしゃぎ、カルサに話しかけた。
しばらく歩いた後、カルサは思い出したかのようにリュナに語りだした。
「太古の因縁、くだらない争いがあったといったよな。」
唐突な話に戸惑いながらも、リュナはあいづちをうつ。カルサの表情がつめたくなっていった。
何がくるのだろう。リュナの中に緊張が走る。
「元凶になった人物は神官の一人、玲蘭華(りょうらんか)という女性だった。」
「女性…。」
カルサは傍にある草を手に取った。そして辺りを見回す。のどかな風景。
「覚えている…草の匂い、風の柔らかさ、水の冷たさも。」
消えそうな声でそう呟いた。誰に言うつもりはない、自分への会話。
「リュナ。あまり知られてはいないが、この総本山にはちゃんと名前があるんだ。」
「本当?そういえば総本山っておかしいものね。ここっていつからあるのかしら?」
リュナの疑問にカルサは微笑んだ。確かに、太古の国の神官の末裔が御剣なら、御剣の総本山はいつできたのか。
誰が作ったのか。考えれば不思議なことばかりなのかもしれない。
「答えは簡単だ。」
カルサはリュナの前に立った。リュナはまっすぐカルサを見ている。
覚えている…この地の波動を。
「この国の名前はオフカルス。かつて太古の王国が栄えた場所だ。」
リュナの瞳が大きく開く。驚きを隠せはしなかった。
「このオフカルスを治める者を太古から守麗王と呼び、それは現代にも続いている。現王の名は…玲蘭華。」
「玲蘭華…?」
「すべての元凶である玲蘭華。彼女がそうだ。」
リュナは反射的に手で口を覆った。動揺する瞳はカルサを求めている。
「玲蘭華、ジンロ、沙更陣。あいつらは古の民、太古の因縁にまつわるもの。ここは全ての元凶がある、まさに総本山なんだよ。」
遠く離れつつある宮殿をカルサは見つめた。かつて自分達が暮らしていた場所、そこに全てがある。