光の風 〈聖地篇〉-19
泣いているのだろうか。
リュナは目を閉じ、涙を落とした。そして目を開け微笑む。
「気付いてないのね、カルサ。全然気付いてない。」
リュナの声をカルサはじっと黙って聞いていた。リュナの腕がやさしくカルサの頭と背中を撫でる。
「あなたが思うより私は強いのよ?あなたが思うよりこの想いは強い。」
カルサはゆっくりと体を起こし、二人は見つめあった。カルサは泣いてはいなかったが不安そうにしていた。
リュナは愛しそうに微笑み、額に軽くキスをする。
「あなたの使命が運命なら変えられる。想いは全てを変える力を持っているのよ?」
リュナの言わんとする事が分からない。カルサはきょとんとしていた。
「傍にいるわ。傍にいたいの。」
リュナはカルサを包むように抱きしめた。幸せそうな笑顔、自分を求めてくれた事が嬉しくてたまらなかった。
「ありがとう。カルサ。」
カルサの顔が赤く染まる。思わず口を手で覆った。
「求めるつもりなんてなかった。オレは一人で戦っていかなくては…誰も犠牲にしない為に強くならなきゃ。」
感情を捨てようとも思った。しかし、捨てきれなかった。ならば強くなるしかない。誰も寄せ付けない強さ、すぐにでも命を亡くす強さが必要だった。
死にたがっていた。
「でもリュナに会って、愛しいと思ってしまった。守りたい、共に生きていきたい…。オレは命に執着を持ってしまった…。」
自分が死ねば全てが終わる。国も仲間も全てが救われる。命など惜しくはなかった。
たった一人の女性に世界を変えられるなんて。
「運命なんて私が変えてみせるわ。想いは力になる、何よりも無敵になれるのよ。」
両手でカルサの顔を包む。優しい瞳、暖かい空気、心も体も包まれるようだった。
時に無邪気に、時に全てを許すように与えてくれる愛情、カルサの生きる意味となる存在。
「カルサが好きなの。嬉しい…私を求めてくれてありがとう。」
リュナはそう言ってカルサを抱きしめた。カルサもそれに応える。
カルサの目から涙が溢れてきた。リュナをしっかりと抱きしめ離さない。
「ありがとう…リュナ…ありがとう。」
何度も同じ言葉を呟く。何度も何度も。今まで押し殺してきた想いが破裂する。
永遠に叶わない願い。
彼女の笑顔と想いで叶った願い。カルサよりも周りの人間が願ったこと。