光の風 〈聖地篇〉-16
「現世だよ。オレは体を捨て、魂だけを未来に飛ばした。そして、シードゥルサ国の王族カルサ・トルナスの中に入ったんだ。まだ彼の魂が目覚める前、オレは魂を融合させて。」
リュナの瞬きが速くなる。カルサの言った単語を呟く。魂、未来、融合、にわかに信じがたい話。しかしカルサの目は真剣だった。
嘘ではない。
「じゃあ、カルサはカルサであってカルサじゃないの?」
何を言いたいのかリュナ自身にも分からなかった。不安な表情、当たり前のことだが頭の整理がついていない。
だがカルサには何が聞きたいのか通じたらしい。両肩を掴んでいた手を放し、右手で彼女の頬に触れた。
「オレはオレだ。たとえ時空を渡って今生きているとしても、カルサ・トルナスと共にオフカルスのカルサがここにいる。」
「名前は同じなのね。」
「ナルが名付け親だ。占いで産まれてきた子の正体に気付いたんだろう。同じ名をつけてくれた。」
そう。と呟いた後、リュナはある事に気付いた。口元に手をやり、まさかの可能性を自身の中で疑う。
「千羅さんたちも、カルサと同じ様に…?」
「いや、リュナと同じ様に先代神官たちの生まれ変わりか末裔だ。オレのように太古の国から何らかの形で今を生きているものを古の民というんだ。」
「いにしえの…。」
リュナはカルサの言葉を素直に受けとめ続けた。どこまで信じているのか、受けとめているのかは分からない。
目線を下に落とし考え込んでいたリュナが顔を起こし、カルサに向き合って結論を話した。
「つまりカルサは太古の国の皇子で、亜空間に閉じ込めた人を倒すために今ここにいるって事ね?千羅さんたちは仲間。」
カルサは頷く。それを確認したリュナはさらに前のめりになりカルサに問う。
「何故…そんな事になったの?」
リュナの言葉にカルサの瞳が曇った。淋しそうな、冷めた表情はリュナを後悔させるには十分だった。
カルサは首を横に振り、力なさそうに、でもしっかりと言葉を放った。
「くだらない…争いのなれの果てだ。」
リュナはそれ以上何も聞けなかった。
カルサは太古の国に生まれ、何らかの事件があり、それを終わらせる為に今を生きている。カルサを縛り付けているものは因縁。
魂を別の人間と融合させて生きている、それをリュナがどう思うかが彼には不安だった。
言えない言葉がある。
言いたい言葉がある。
勇気を出せばいいだけなのに、カルサは言えずにいた。口を開いても声が出ない。
「カルサ。」
ふいにリュナに名前を呼ばれカルサは我に返った。考え込んでいたらしい。