光の風 〈聖地篇〉-15
「分からない事だらけ、という顔だな。」
カルサは微笑み、リュナの髪に触れる。そして肩に頭を預けた。リュナはカルサを抱きしめる。鼓動が早い、カルサの緊張が伝わってくる。
無理をさせてしまったのだろうか。
リュナは少し後悔した。淡々と話しているように見えて、言葉を選んでいる。
「リュナ、きみに言わなければいけない事がある。」
低い、かすれそうな声。囁くように放たれた言葉にリュナは頷いた。
開いた口はなかなか言葉を作れない。
傲慢だと思うだろうか?それでも想いは止められない。まだ事実の半分も話していない。しかし急いてしまう。
順番が違うことなんて百も承知だった。しかし頭に浮かぶ言葉は一つだけ。
(ダメだ、言葉にしてはいけない。)
まだ話さなければいけない事がある。彼女の意志を聞く為にも、言わなければ。
思いのほか長い沈黙にリュナは勇気を出して終止符をうった。彼が話しやすいようにしよう。
「カルサのその使命は五大元素の光だから?」
体勢を変えないままリュナはたずねた。同じ様にカルサもリュナに体を預けたまま答える。
「いや、間違いではないが…それが全てじゃない。」
そう、全てでない原因を話さなくてはいけない。それを言う為に時間がかかっているのだ。
言わなければ。同じセリフを頭の中で何回も繰り返している。
「カルサが御剣に詳しいのは、その使命を請け負ったからなの?」
一瞬、カルサの体が反応したのをリュナは感じた。彼の言葉がつまっていた原因はここにある。
リュナがくれたチャンス、今しか伝える機会はない。カルサはゆっくりと口を開けた。
「違う。もっと深いところに理由はある。」
カルサは体を起こし、リュナの両肩を持った。目と目があう。
俯き、深呼吸をする。もう後戻りはできない。ゆっくりと口を開けた。体を起こし、もう一度向き合う。
「何故オレが御剣に詳しいのかも、何故オレにそんな使命があるのかも、答えが分かれば簡単な事だ。」
リュナの顔に緊張が走る。カルサに向けられた瞳はそこから動かない。
「太古の国の名はオフカルス。オレが何故伝えられていない国の名を知っているか。それは…。」
今こそ言わなければ。カルサは覚悟を決めた。
「オレが太古の国オフカルスの皇子だからだ。」
リュナの瞳が大きくなった。驚きが隠せない。振り絞るように声を出す。
「それは…前世、という事?」
リュナの質問にカルサは短く、違うと答えた。横に振られた首、表情はどこか淋しい。