ユウコの選択 ケンイチの明るい未来-2
ケンイチは呆然としてしばらく立ち上がることができなかった。やっとの思いで会議室を出るとふらふらと会社を出、家路についた。
そして朝から晩までウィスキーや焼酎を飲み、時折家のPCでSDカードの中身を見ては泣きながら射精をした。
そんな生活を数日過ごすと家に上司から電話があった。
「ヨシダさん、早く退職届書いてよ。無断欠勤は解雇事由に相当するけど、自己都合にしてやるよ。」
電話口でケンイチは何も言えず、黙って電話を切った。
二日後退職届の用紙が郵送されてきた。
しばらく放っておいたが、他にやることもないので酔った勢いで殴り書きし、千鳥足でポストに放り込んだ
駅前のポストの前でふと顔を上げると、周囲にはメンタルクリニックが何軒もあった。
ケンイチは何日も風呂に入らず酩酊した状態で、適当に選んだクリニックに入った。
初老の医師はろれつの回らないケンイチの涙ながらの話をふんふんと聞き、適当な処方箋を出した。
精神安定剤と睡眠導入剤だった。
その日以来、ケンイチは酒と精神安定剤を一日中飲み続け、時間も季節もわからない生活を続けた。
そんな中めったにならない電話が鳴った。
セールスだろうか?もしそうだったら怒鳴りつけてやろう。
そう思いながら電話を取った。
「お久しぶりです……タナカです。」
絶句するケンイチに、タナカは相変わらずさわやかに話しかけた。
なぜ急にやめたのか、今何をしているのか、そんな話だった。
ケンイチは何も答えることができずうなり声をあげるばかりであったが、やがてタナカの息が妙にはずんでいるのと、リズミカルな音がするのに気付いた。
ケンイチにはすぐに分かった。
以前タナカは、勃起した性器を握らせながらユウコとケンイチに話をさせた。
多分今はユウコの性器に男根を挿入し、腰を振りながら電話しているのだ。
ケンイチはそれに気づくと汚れたジャージを下げ、久々にいきり立った性器を引っ張り出すと、激しく性器を擦り始めた。
もしかしたらユウコの声が聞こえるかもしれない。
そう思い受話器を耳に押し付け、どうしても電話を切ることができなかった。
『全て盗られてしまった。
仕事も金もなくなり、何より大事なユウコの体と心、そしてユウコとの楽しい思い出も、
全部タナカに盗られてしまった。
最初は余裕を持って眺めていたのに、いつの間にか全部奪われて手元には何もない。』
アルコールと精神安定剤のせいだろうか、タナカの声が徐々に遠くなり、ケンイチは涙を流しながら、暗い安寧の世界に静かに沈んでいった。