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蜜戯
【SM 官能小説】

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蜜戯-6

「あなたも、わたしといっしょにお風呂に入らない」と、さりげなくわたしが言うと、彼は小さく笑い、仕事中ですからと首を横に振った。
彼は浴槽からあがったわたしを洗い場のバスチェアに座らせる。石鹸の泡をたっぷりと含んだタオルをもった彼の手は、わたしのあらゆる部分に触れてくる。老いて色褪せたどんな窪みも突起も見逃すことなく。
泡の中に彼の指先が見え隠れする。わたしはどんなところにも潜んでくる彼の手を拒むことはなかった。いや、拒むことができないほど、わたしの体は彼の指に従順だった。まるで彼に飼われたペットのように身をゆだねる。
なぞられた首筋のくすぐりに思わず唇から吐息が洩れる。垂れて萎んだ乳房が泡の中でふくらみを取り戻したように揺れると、胸奥が微かに疼き、遠い昔、男のために差し出した乳房の懐かしい感覚が甦ってくる。乳首が泡で包まれ、持ち上げられた乳房の下端にタオルの絡んだ彼の手が滑り込み、まるで乳肉を揉みしだかれるようにタオルの泡をまぶされる。香りのいい泡をたっぷりと含んだタオルはわたしの腹部へ這い下がり、臍のまわりを転がると、それ以上に下がることをためらったように不意に肌を離れ、足先を包んだ。
タオルはわたしの脚の指先のあいだから、膝の裏側まで磨きあげ、やがて内腿を滑り、そこでふたたび、ためらうように止った。明らかに彼の手はわたしの肉体の中心に向かうことを戸惑っていた。そんな彼の指の意識は、わたしにとって意地悪い快感だった。彼が戸惑っている時間はとても長くわたしを焦らした。
わたしはそんな彼の意識を楽しむかのようにバスチェアからゆっくり立ち上がり、わずかに脚を開いた。彼は自分のためらいをぬぐい去るようにわたしが望んでいることを敏感に感じ取り、手にしたタオルを腿のあいだに滑り込ませた。
あっ……という微かな声が咽喉にくぐもった。わたしは彼の手を拒まなかった。股間に滑り込んだ彼のタオルは脆い臀部の肉を撫でまわし、尻の切り目に差し入れられ、股間をなぞった。そして秘所まで忍び込んでくると、彼の手に、彼の指に、息がつまるような疼きを感じた。タオルが一瞬、肉の合わせ目を擦り上げたとき、わたしの肉奥で羽を拡げた蝶が甘い悲鳴をあげたような気がした。
ふと、わたしは感じた。彼の指が、女として成熟した色彩と、匂いと、息づきを失ったわたしの肉体ではなく、無垢な心へと揺り動かすように滲み入ってくることを。剥き出しにされたわたしの裸は、もしかしたら彼にとって肉ではなく、眼に見えないわたしの心であり、性の対象にほかならないかもしれないと思うと、わたしは美しさを散りばめ、香り高い柔らかさを含んだ彼の指を、彼の肉体を、とても欲しくなっていた。

お風呂を終えると、彼は新しいネグリジェでわたしの裸を優しく包んでくれた。ネグリジェは彼に着せられ、彼に脱がされるために、わざわざ買ったものだった。彼がそのネグリジェでわたしを包むとき、わたしの身体のどんな部分でさえ寸分も動かすことはできなくなるほど体が酔いしれ、彼の指先は甘美な癒しに充ちていた。
ふわりとした柔らかい生地を通して彼の指先の感触が伝わってくる。
「お婆さんの身体に、こんなネグリジェは似合わないかしら」とわたしは彼を誘惑するように上目遣いに言った。
「そんなことはありません。とてもセクシーだと思います」そう言った彼の声がとても素直だったことにわたしは苦笑した。
彼の指はネグリジェのホックを止め、肩の線を伸ばし、胸元を整えた。その指は、わたしのネグリジェをいつでも脱がせ、もとの裸にいつでも戻せることができるという指使いだった。
「どんなものでもあなたに着せられると、自分ではとても似合っているように感じるのが不思議だわ」とわたしは言った。
 彼はにっこりと微笑んで言った。「ミヅヨさんはどんな衣服でも似合います。でも、一番似合っているのは、ミヅヨさんが身に付けているものをぼくが脱がせたあとの姿です」
「こんなお婆ちゃんの裸でも……」
「ぼくの手によって裸にされたあなたが、一番きれいだと思います」彼はまじめな顔をしてそう言うと、わたしを椅子に座らせた。
「ミヅヨさんの足の爪を切らせてください」
 どうして脚の爪なのかわからなかったが、しばらく足指の爪を切っていなかったこともあり、わたしは小さく頷いた。
彼は靴を履かせてくれたあのときと同じようにわたしの足元に跪き、指を添えた。わたしの足指に絡まる彼の指の体温が脚先から愛おしく這い上がってくる。わたしはその体温から彼の指の輪郭をとても敏感にとらえることができた。足指の爪はとても丁寧に優しさを込めて切り取られた。
わたしの足の爪を切ることが彼の目的ではないことに気がつくのに時間はかからなかった。彼はわたしの足のふくらはぎに手を添え、切り終えた爪先をゆっくりと持ち上げ、顔に近づけた。 
わたしの足指に彼の唇が触れた。その沈黙に充ちた美しい行為は、彼がわたしのものだということを示していた。
わたしと彼のあいだに漂う空気が濃さを増してくる。彼は足指を一本一本、唇に含み、愛おしくしゃぶり、足指のあいだにも舌を挿し入れた。彼がわたしの足指をひたすら舐めているだけで、わたしは自分のすべてが彼に求められているような気がした。老いた体の突起と窪みの翳りが光に晒され、ふつふつと息を吹き返していく。彼の美しい指と慈しみを込めた唇によって愛撫される足指から拡がった甘美な感覚によって、わたしの肉体は呼吸が止められ、濡れ始め、今にも舞い上がりそうだった。



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