修行の日々-1
厳しくも、楽しい修行の日々が続いた。
「富田」に来たあの日以来、咲月とはちょこちょこ顔を合わすが「あの時」のような美味しい状況は無い。同居人の心がけとして一番最後に風呂に入ることにしているが一つ屋根の下に男が住むことになったので洗濯などにも気を付けるようになったようだ。あの日以来咲月の洗濯物が風呂場にあることも無くなった。
荘太自身もあんなラッキーなことはもう起こらないと思っていた。ただ咲月への想いは日増しに募っていくのだけは感じていた。
忙しい時には手伝いで仲居をする咲月の和服姿を見るのも密かな楽しみだった。だが修行に打ち込む姿勢だけは妥協せず日々の鍛錬を怠らず、親方からも褒めらている。
しかし数か月程度の修行で包丁を握らせてもらえるようになる訳でもない。
8月に入りお盆の時期は「富田」も一週間の休みを取る。親方とおかみさんは例年5日間旅行に出るようだ。夏休み中の咲月は敢えてその時期は家にいてのんびり一人を楽しんでいるようだが荘太が住み込むようになった今年はどうなのだろうか・・・
一人になった荘太は帰る実家もなく部屋で過ごすつもりだ。
お盆休みまで1週間になったある日、廊下で咲月に話しかけられる。
「荘太君は休みの間、どっかにいくの?」
「なんも、なんも。その辺の料理屋さんに勉強がてら食事に行こうかって思ってるくらいで」
「ふーん。親父さんは母さんといっしょに旅行だから今年の夏は荘太君と二人だね。いつもは一人で少し怖かったのもあったけど今年は安心ね」
「は、はい!何があってもお嬢さんの事はお守りしますけん!」
にっこり笑みを浮かべて
「大げさなんだから、でもちょっと嬉しいかな」
「なんも、なんも・・・」
急に夏休みが待ち遠しくなった荘太だった。