太陽と男 月と女-1
小汚いビルが緋色に染まる
美しいと人々が小声を漏らす
隣の男がそれを聞いて嘆いた
では何故俺はこんなに汚いのか、と
沈みかけた夕日に投げかける
俺を殺してくれ、と
もう、この世界は新しい冒険などないから
俺を殺してくれ、と
夕陽は男にこう説いた
私は誰よりも無力であるから
あなたを死なす権利も何もない、と
嗚呼...そうなのかと身震いし、男は屋上へと駆け上がる
人々の視線は好奇の眼差しで満ち溢れ移り変わる
そして男は夕陽に勝ったのだと大声をあげながら飛び降りた
俺のほうが真っ赤なのだ、と
大声で狂ったように叫ぶ
男は俺の知らないところへふっとどこかへいってしまった
人々はまた歩き出す
まるで何事もなかったかのように
そして俺は夕陽に笑う
俺はまだ生きていると
そう、明日も行き続けてやるのだ、と
大地が夕陽に照らされ暗闇が始まる
人々が怯えだす あの夜が始まる、と
帰路の途中の女が喚いた
私は夜など怖くはない、と
でてきた月に女は問い掛ける
何故私はこんなに不幸なのだ、と
一番愛していたのは私だったはずなのに
何故あの人は私を必要としないのか、と
月は女にこう説いた
私には翼が必要ない
あなたも元々無いではないか、と
それもそうだったと女は言い残し狂犬のように走り出す
人々は止めもせず何もしないただ見ているだけ
そして女は本当に必要なかったのかしらと笑いながら
刃物を首へ突き刺した
私には翼が必要なかったのだろうかと笑いながら
薄暗い空に上って行った
けれど人々はまた朝を迎える
生活を変えることが無く
そして俺は生きている
多分ずっと生き続ける
俺はインクのように暗い闇夜にそっと誓った