ライブラの女 バランスの章-3
僕はそっと彼女の腰に手を添えてうつ伏せに寝かせた。バイブレータは挿入したまま、腰をあげさせ臀部を突き出させる。尻の溝にローションを垂らし、アナルに塗り付ける。
「ああん、だめえ、そんなとこぉ」
「綺麗なお尻の穴だね」
乱れのない星のようなアナルはまるで聖域だ。だめだという割に美佳は大きな抵抗を見せない。たっぷりローションを乗せた指先でアナルのひだをなぞる。円を描くようになぞりながら指先を少しずつ内部へ納めていく。
「や、あ、やああん」
「気持ちよさそうにひくつかせてるよ」
押し出させてきたバイブレーターのスイッチを強にし中に戻すと美佳はのけぞって大きく喘ぐ。――やっと乗ってきたのかな。
身体がしっとりと汗ばみ始め喘ぎ声に粘り気が混じってくると同時に卵型の小尻を左右に振り始めた。僕はぺちっと尻を叩き、ますますアナルへ指を侵入させほぐしていく。
「うっ、うっ、なん、かっ、変んっ」
尻から力が抜けていき指への締め付けが薄れてきたころを見計らい僕は一等星のような放射線状に剛直を押し入れた。
「ひっぐうううっ」
「き、きついな。力抜いて」
なんとか亀頭を納めると僕も美佳も全身が桃色に染まり汗が噴き出していた。
「うううっ、あううう」
「もう、少ししたら、全部入るから」
呻きながらもされるがままの美佳は被虐的でも諦めでもない受容といった態度でなぜだか高貴さを感じさせる。
ミチミチと肉襞の圧迫を感じながら肉棒を納めてしまうと達成感と支配欲が満たされた。鏡に映された美佳の顔が歪んでいる。
「くううぅ」
彼女を横向きにし、しばらく動かずにバイブレーターを出し入れすると低いうなり声で喘ぎ始めた。
「おうううぅうぅう」
「自分で持って動かして」
「あうう、うっっふううう」
片脚を上げ、かさついた彼女の手にバイブレーターを持たせると従順に腰をくねらせながら出し入れをゆるゆると行った。
「あうううっ」
僕は乳房を揉みしだきながらきつい肉壁をこするべくゆっくりと腰を動かし始めた。
「ううう、きついな。しまるっ」
「あああぁ、やぁあだああ、うう、あううん」
半開きの唇と白目を剥きかけている美佳の顔が呆けてきていてだらしなく崩れているのを眺めると興奮する。
「手を止めたらダメだよ」
ぐにゃりと軟体動物のようになっている美佳は僕の動きに合わせて反応するだけで自我がなくなったように見える。
「あああ、もう、イクよっ」
「あふうぅう、うふううぅうう」
ヴァギナのバイブレーターを出し入れしながらアナルへのピストン運動を同時に行うと美佳は両方ともきつく締め上げ、かすれた声で嬌声を上げる。
「かはああああっああああっ」
「うっ、きっ、っつ、ううう」
搾り取られるような感覚で放出すると美佳もアクメに達したらしくガクッと上げていた顔を下に落とした。二匹のナメクジがぴったりとくっついているような感覚が心地よく眠りに落ちた。
しばらくバーに通ったがなかなか美佳は現れなかった。マスターに尋ねても情報を得られはしないだろう。――月に一度か。
カルチャースクールの講座を終えて久しぶりに弁当を買って帰ることにした。昔からあるこの弁当屋はコンビニエンスストアが普及しても細々と営まれている。幕の内弁当を購入しガラッと店を出ると白いかっぽう着姿の女が短く「あっ」と声を発しこちらを見た。美佳だった。彼女は青いスモックを着た男の子と手をつないでいる。頭を下げ慌てて店に入ろうとする彼女に声を掛けた。
「待って」
美佳は男の子に「店のお座敷で少し待たせてもらって」と言い、彼を店の中へ優しく入れた。
「緋月さん、こんにちは」
「ここで働いているの?」
「ええ」
「今のは息子さん?」
「はい」
バーで会った彼女とは装いの違いで全く異なる印象ではあるがやはり優美でたおやかだ。
「またバーにくる?」
彼女は沈黙した。
「今月いっぱいでこの町を出て私の田舎に息子と行くことになったんです」
「二人で?」
「やっと離婚が決まったんです。今までひどいDVを私も息子も受けていて、別居してたんですけど、月に一度は息子を夫の、祖父母に会わせることになっていて……」
「あの晩もそうだったのか」
「すみません。離婚ができないんじゃないかと不安でたまらなくて……あなたならなんだかわかってくれるような気がして」
「ごめん。君には当たり散らしてしまった。……DVか。僕も暴力を振るったのと同じだ」
「いいえ、いいえ。緋月さんはとても優しかったです。激しくもあったけど決して暴力的じゃなかった。私……あんなに燃え尽きるような感じは初めてで本当に真っ白になった気がして……」
「また、僕と……」
恍惚とし始めた美しい美佳の頬を撫でようと手を伸ばした瞬間「ママ!」と男の子の声がかかった。僕ははっと手を下げ元に戻す。
「あ、俊介。さよなら緋月さん。もう……お目にかかることはないと思います。あの夜は最高の夢です。これからは息子と二人で頑張っていきます」
「ありがとう。君のおかげで癒されました。どうかお元気で」
穏やかな母親の顔になった美佳は頭を下げ子供の手をしっかりと握って去っていった。彼女は息子と男を両天秤にかけることはない。バランスを優雅に保ちながらも確実に大事なものを選択できる強さを彼女の中に感じた。
二人の微笑ましい後ろ姿をしばらく見送って僕は弁当の入った袋をブラブラさせ帰路についた。