心の映写機-2
彼女の声を聞いて、今までの緊張が溶けていくのが分かった。
今此処で雨宿りをすれば、俺は彼女に話し掛けて君を笑わせることが出来るだろう。
過去を笑い話に変えることも出来るだろう。
だけど俺のあの時の気持ちは、少なくとも今はまだ笑い話にすることは出来なかった。
俺は手提げ鞄から折りたたみ式の傘を取り出して彼女の前で開いた。
彼女は少し驚いたような顔をして、傘の中に入ってきた。
入って来た時に彼女は一言謝った。
ごめんね。
彼女はよく謝った。
別に雨が降ったのは彼女のせいではないから謝る必要は無い、だけど昔の俺は彼女のそんなとこに惹かれたんだ。
カタカタ。
頭の中の映写機が少しずつ回り始めた気がした。
彼女との会話は途切れがちで、少しぎこちなかったけどなんだか昔に戻ったようで。
外灯なんかまるで無い田舎道を二人で歩く。彼女はどうやら遠い街に夢を叶えに行くらしい。
昔の俺なら言っていただろう。俺も一緒に行くと。
それとも、行かないでくれって頼んだかな。
だけど、もう俺達は少しばかり大人になっちまったらしい。
口から出たのは当たり前の励ましの言葉だけだった。
彼女の家の前まで来たとき、もう雨は上がっていた。
傘をたたんで彼女を見送る。
彼女は、家の一歩手前で俺の方に振り返ると一言を残して家に入っていった。