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消しゴム
【学園物 恋愛小説】

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消しゴム-1

「ここはマルコフニコフの法則を使って…」

気怠い空気が流れる午後の教室。そこに響き渡る先生の声とチョークの音。
気を抜くと睡魔に意識を攫われてしまいそう。

外には蝉の大合唱が響き渡っている。
幸いにも、公立であるこの高校もクーラーが数年前に設置されたため、教室は涼しい。
現代に生まれてよかった。
そんなことをしみじみと頭の隅で考え、再び黒板を板書することに奮闘する。

黒板は、先生が書く落書きみたいな読解困難な字と、名前しか知らない物質の構造式で、どんどん埋め尽くされていく。

必死にノートをとっていると、ふと手元に消しゴムが無いのに気がついた。

「あれ?」

落としたのかな?なんて考えながらペンケースや鞄、机の周りをキョロキョロと探してみる。

無い…

たぶん、どこかで落としてしまったのだろう。
ツイてないなぁ。

はぁと小さく溜め息をついたその時

トン

そっと無言で机の端に置かれた消しゴム

私のものじゃない。
だってメーカーが違う…。

手に取って、この消しゴムの本当の持ち主の方を見てみた。

涼しい教室の中、耳を真っ赤にしながらも、まるで何事も無かったように授業を受ける君

おそらく、気を使わせないようにしてくれてるんだろう。

さりげない優しさが嬉しくて、くすぐったくて、ちょっぴり照れ臭くて、私は下を向き、肩を竦めてこっそり微笑んだ。

授業が終わったら真っ先に「ありがとう」を言おう。



不思議なことに、眠気はいつの間にかどこかに飛んで行き、先生の呪文の様な言葉達も苦にならなくなった。


窓の外では、夏の陽射しに照らされ、キラキラと青葉が輝いていた


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