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安倍川貴菜子の日常
【コメディ 恋愛小説】

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安倍川貴菜子の日常(1)-4

そしてトナカイにもクラスというものが存在していて、高いクラスのトナカイになると普段は人間と同じ姿に擬態するトナカイもいるのだ。
今現在ヌイグルミの格好をしているエドは護の使い魔だけあって一番下のクラスである。

「さて、そろそろ12月だなぁ…」
護は一人呟くと、食事を終え食器を片付けた後、気絶してるエドを摘み上げると自室のパソコンに向かいメールのチェックをした。
このパソコンは護の父親が生前使っていたもので、護はパソコンのシステム等の変更はしないでそのまま使っていた。
程なくしてメールソフトが立ち上がると一件のメールが受信されていた。
宛名は『サンタクロース協会アジア支部 神野幸一郎』からだった。
神野幸一郎とは、サンタクロース協会アジア支部の支部長でもあり、護の祖父であった。
「爺さんからのメールか…」
護は幸一郎からのメールを開くとメッセージを読んだ。
メールの内容は一昨年の両親の死について悼むものと両親に先立たれ一人残された護を気遣うもの、それと今年のクリスマスまでのサンタとしてのスケジュールが書かれており付属の添付ファイルには今年の対象者リストが入っていた。
護はメールの内容を一通り読みため息を吐くと、パソコンの置かれているデスクに放置されていたエドが復活しディスプレイを覗き込む。
「ああ、支部長様からの定期連絡かぁ。相変わらず心配されてるね護は」
エドはそう言うとメールへの関心が失せたのかディスプレイから離れるとデスクの上にあったMP3プレイヤーの電源を入れるとヘッドホンを手繰り寄せそのまま横になると音楽を聴き始めた。
その間、護は幸一郎への返信のメールを作成し送ると12月の学校のスケジュールとサンタのスケジュールを照らし合わせるように眺め、しばらくしてベッドに横になるとそのまま眠りについた。
その夜、護本人の記憶には残らなかったがとても穏やかな夢を見たのだった。

翌朝、護は鶴ヶ峰学院に向かう為いつも見慣れた鶴ヶ峰城を横目に歩いていると後ろから声を掛けられた。
護は眠そうに振り向くと友人でありクラスメイトの麻生圭吾と双子の妹である麻生若菜が走ってきた。
この二人は護との付き合いも長く、人付き合いが不器用な護にとって大切な友人でもある。
「おっす!護」
「おはよう、護くん」
麻生兄妹が挨拶をして護の横に並ぶと、眠そうに生返事をする護を見て圭吾は護の背中を笑顔でバンッと叩いた。
「いってーな、朝から元気なのは良いけどもっと手加減しろよ」
「なぁーに言ってんだ。俺は護が通学路の途中で行き倒れて寝ない様に目を覚まさせてやってんだ。海より深く感謝してくれ」
「お兄ちゃん!また変な理由を付けて恥ずかしい事しないでよ」
やれやれといった顔で護は圭吾を見ると朝からテンションの高そうな笑顔で笑っており、そんな圭吾を若菜は迫力の欠片もない表情で怒っていたが圭吾は全然気にしていない様子だった。
長い付き合いの三人はこんな調子でほぼ毎朝通学しておりこの様な会話も日課みたいなものである。
しかし、付き合いの長い麻生兄妹でも神野家がサンタの家系であり、護がサンタだという事は当然知る由もなかった。
護達が他愛もない話をしているうちに自分達の教室に着き、それぞれの席に着くと護は机に置いた鞄がもぞもぞ動いてる事に気付き、人目を憚るように鞄を開けるとエドが小声で話し掛けてきた。
「護、ちょっといいか。この教室に俺と同類がいやがる」
「お前と同類?て、事は使い魔って事か」
エドに釣られて小声で話す護にエドは鞄の中で頷いた。
「おそらく向こうも俺の気配に気付いてる筈だから、どんな使い魔か正体がわかるまで気をつけろよ」
そう言うとエドは鞄の奥に引っ込んでしまった。いつもと違うエドの様子に護は違和感を覚えつつ軽く教室を見渡すと鞄を机の横に引っ掛けたのだった。
結局、護はエドの朝の一言に神経をピリピリさせながら学校での一日を過ごす羽目になり、放課後には精神的な疲労でヘロヘロになっていた。


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