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安倍川貴菜子の日常
【コメディ 恋愛小説】

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安倍川貴菜子の日常(1)-2

その姿は手のひらに乗る位の大きさのウサギだった。ただし、普通のウサギと違う点は色がピンクという事と二本足で直立不動してる点だった。
「ボクの名前はチョコでし。ヨロシクねご主人ちゃま」
ピンクのウサギは可愛らしい笑顔で自己紹介するとペコリと頭を下げた。
「あ、私は安倍川貴菜子。よ、よろしくねチョコちゃん」
あまりの非現実的な存在と出来事に貴菜子の頭は対応しきれなかったのか逆に普通の挨拶をしてしまう。
そして貴菜子はチョコと名乗る摩訶不思議なウサギをまじまじと見つめるとそのウサギを抱き上げた。
その手触りと重さは生き物というよりぬいぐるみだった。
「以外と軽い…。って、そんな事を言ってる場合じゃないよぉ」
「ちょ、ちょっと、ご主人ちゃま〜」
慌てた貴菜子はチョコを抱いて自分の部屋に急いで戻ったのだった。
貴菜子が倉庫を後にしてしばらくたった頃、貴菜子の父であるマスターが倉庫に入り棚の上の部分を見つめていた。
「キナちゃん見つけちゃったんだね。これから大変かもしれないけど頑張れ…」
そう呟くと貴菜子の父は少しだけ微笑み倉庫を後にした。

その頃、貴菜子はチョコを自分の部屋に連れてきて机の上に置くとまじまじと見つめていた。
「う〜ん、可愛い事は可愛いんだけど不思議よねぇ…」
「うう〜っ、そんなに見られると恥ずかしいでし」
貴菜子の視線に耐えられなくなったチョコはもじもじと身体を動かし、とうとう自分の耳で顔を隠してしまった。
「ああっ、ゴメンねっ。でも、チョコちゃんって一体なんなの?」
慌てて両手を合わせ謝る貴菜子の言葉にチョコは落ち着きを取り戻し、耳を元に戻すと腕を組み頭を傾げて答えた。
「ご主人ちゃまの世界観で言うとチョコは使い魔?」
「使い魔!?じゃあ、私って魔女っ子とかってやつになっちゃったの!?」
チョコの言葉に驚きを隠せない貴菜子は机の上のチョコに詰め寄ったのだった。
「それとはちょっと違うでし。チョコはご主人ちゃまの使い魔になりましたが、ご主人ちゃまは魔法とかの特殊な力は使えませんでしよ」
一瞬、魔法とか使えるようになるのかと期待に瞳を輝かせた貴菜子だったが、チョコの一言に項垂れて机に突っ伏した。
「なぁ〜んだ、チョコちゃんみたいな使い魔が現れたから私も特別な力とか使えるようになるのかなぁって思ったのにぃ…」
「でもでも、チョコはちょっとだけ特別な力を使えるのでし。だからチョコがご主人ちゃまをいろいろと手助けするでし」
机に突っ伏している貴菜子の頭をチョコが小さな手で撫でていると貴菜子はいきなり起き上がり、その反動でチョコは悲鳴を上げながら机の上を転がっていく。
「チョコちゃん!特別な力が使えるなら私のドジをチョコちゃんの力で治せないかな?」
貴菜子は瞳をキラキラさせすがる様にチョコを見つめると、チョコは自分の頭を擦りながら申し訳なさそうに口を開いた。
「すっごく期待してるご主人ちゃまには申し訳ないんでしが、この世界でチョコの力を永続させる事は出来ないんでし…」
ごめんなさいと言いながら頭を下げるチョコに貴菜子は思わず苦笑するしかなかった。
お約束の様だが、この世界でのチョコはそこまで便利ではないのだった。
「じゃあ、チョコちゃんは私のところに何しに来たの?」
ここで当たり前な質問を貴菜子がすると、チョコは机に置いてあるノートを開きボールペンを重そうに抱えるとヨロヨロしながら説明を始めた。
「えっと、まずチョコがご主人ちゃまのところへ来たのは、ご主人ちゃまが願い事を抱えた状態でその指輪をしたからチョコが呼ばれたんでしよ」
チョコは一生懸命にノートへ頼りない線で何かの図を描きながら貴菜子に説明を続け、貴菜子は頷きながらチョコの様子を眺めていた。
「で、あわわっ…。チョコの住んでる世界とご主人ちゃまの住んでる世界は物理的な繋がりはないんでしが、精神的な部分では密接に繋がってるんでしね」
ノートに図を描く事に一段落したのか、チョコはボールペンを置くと大きく息を吐いた。
「それでチョコ達の世界を安定させるにはご主人ちゃま達の世界で選ばれた何人かの人の幸福感が必要なんでし。で、今回、選ばれた中の一人がご主人ちゃまなんでしよ。だから、ご主人ちゃまが幸せになるのをチョコがサポートしに来たのでし!」
そう言うとチョコは意味もなく胸を張った。
あまりにも荒唐無稽で普段なら失笑ものの話だが、今は目の前に非現実を具現化した存在であるチョコが貴菜子に話しているのを考えると、信じても良いかなぁと思ってしまう貴菜子だった。


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