身体の異変-1
奈緒は彼の不気味な笑みが頭から離れなかった。
あれは何の笑みだったのか。
まだ人生経験の少ない奈緒にも、あれは人が『喜』を感じた時に
浮かべる笑みではないことは想像がついた。
そして、その日を境に奈緒は自分の異変を感じるようになった。
最初に感じたのは授業中だった。
突然ペンを持つ右手が動かなくなり、奈緒は焦りを感じた。
左手で動かそうとしても、まるで鉄の塊のように微動だにしない。
まるで夢でも見ているかのような現象にパニックを起こしそうになった時、
何事も無かったかのように右腕は動くようになった。
それは日を追うごとに、様々な現象を奈緒に引き起こさせた。
腕や脚が動かないこともあれば、金縛りのように全身が動かなくなる時もあった。
いつそれが起きるのか、奈緒も不安を感じずにはいられなかったが
不意義と私生活に支障がないタイミングでいつも異変は起きていた。
奈緒はその異変を自分の両親に相談し、下校途中に病院へ行くことになった。
しかし、医師の診断を受けても何の異常もなく
知らぬ間に蓄積されるストレスではないかと言われた。
奈緒はそんなストレスに心当たりは無かった。
学校生活は充実しているし、友達との関係も円満だった。
奈緒は病院を出て、駅へと向かおうとした所で、
目の前に男が立っているのを目にした。
紺色のジャケットを着ている彼だ。
奈緒『・・・あっ・・・』
奈緒は彼を見ると、自然と声が出ていた。
そして、その一言と同時に、奈緒は自分の身体が全く動かなくなっていることに気がついた。