真夏の夜=2人っきりの夜(後編)-3
「……実はな、小学生の頃、姉貴に無理やり『死霊のはらわた』を見せられてな。それ以来……」
あれは……思い出すだけで背筋が凍る!ゾンビ化する奴らに、指が潰れたり……いきなりボロボロになったり………。あれ見た日から一週間は夢に出てきて、色々大変だった。幼少時代のトラウマだ。
あぁ、思い出したくないのに思い出してしまう脳みそが恨めしい。
「そうか、でもな。アタシには隠し事、しないでくれよ。アタシはな、憲の事…たくさん知っていたいんだ」
………白雪。
「憲の好きな事も、苦手な事も、嬉しい事も嫌な事も………過去の事も、将来の事も……アタシは知りたい。変かもしれないけどな、アタシは知りたいんだ」
「……そりゃ、俺だって同じさ」
好きな人の事を知ると言う喜びは、代え難い物がある。
「じゃあ、意見が一致した所で憲に質問がある」
質問………なんだろ。
「……進学先、どこの大学にするつもりだ?」
!!!
「白雪……それは」
「約束だけどな、やっぱり駄目だ。気になって仕方ないんだよ。アタシは、どうしても憲と同じ大学に行きたいんだよ」
「………それで、白雪が勉強したい事が出来なかったら……夢を叶える事ができなかったら、どうするんだよ。それでも来るなんて言うのか?」
「………うん」
「ダメだっ!!」
「憲……」
白雪の顔が悲しそうに歪んだ気がした。けど、駄目だ。
「俺と同じ大学に行くためだけに、夢を捨てるなんてそんな馬鹿な事があるか!?………たった四年じゃないか。それに……会えなくなる訳じゃないだろ?」
そうだ、たった四年。普通に過ごしていれば、四年ですむんだ。
「……憲。アタシな、カウンセラーになりたいんだ」
…………?
「アタシは、あいつに裏切られて、男を信用できなくなった。今でも、憲と孝之以外の男を……心の底から信用することはできない」
あいつ………出ていった親父さんの事か。
「けどな、世の中にはアタシよりずっと酷い事になってる人もいると思うんだ。何もかも信用できない人だって、いると思うんだ。アタシは、そういう人達の助けになりたいんだ」
白雪……そんな事を考えてたのか。
「でもな、白雪……なら尚更、捨てるべき夢じゃないと思う」
「憲…アタシは憲抜きで夢を叶えられる程、強くないぞ」
自嘲気味な声が聞こえてくる。……そりゃあ、俺だって。
「けどな、俺の行きたい大学……心理学部なかったような」
「それでも、教えてくれ。せめて、近くの大学にするっていう手もあるから」
あぁ、その手があったか。
「わかった。……『神流崎大学』だよ。入れるかは、すっげぇ微妙だけど」
「……奇跡じゃないか?」
………へ?
「アタシの行きたい大学………神流崎のすぐ近くだよ。聖ウルスラ女子大学」
「………近くにあったかな、そんな大学」
女子大なんて、まるっきり縁がないからな。場所どころか、名前すら聞いたことがないな。
「ある。城崎橋駅が最寄りだろ?」
「うん。………はぁ、どうやら俺たちには切っても切れない何かがあるらしいな」
ここまでになると、そういうのも考えてしまう。もちろん、嬉しいけどな。
「赤い糸じゃないな。もう鎖だよ、アタシ達を繋げてるのは」
「ピアノ線の方が丈夫じゃないか?」
「じゃあ、ピアノ線にしておこう」
と言うわけで決定。俺たちには赤いピアノ線がついてる。
これで安心して勉強できるな。
「じゃあ、早速帰って勉強を……」
180°回頭…全速りだ……うげっ?
「駄目だぞぉ。割り箸取りに行かなきゃな」
首根っこを掴んだ白雪の意地悪い声が聞こえる。
駄目ですか………。
「さぁ行くぞ」
「勘弁してくれぇーー…っ!!」
END