揺れる身体-1
「ママー!今日陸くんのお家に遊びに行ってもいい?」
保育園のお迎え時間に息子の翔也(4才)が仲良しの田代陸君の家へ遊びに行きたいと言い出した。
「良いけど、ちゃんと陸君のパパに許可もらってからね。」
私は辺りを見渡し帰り支度をしている親御さん達の中に背が高くてひと際目立つ
陸君パパの田代俊己さんの姿を捉え、いそいそと駆け寄って話しかける。
「ああ、良いですよ。俺が二人とも連れて行きますんで後で迎えに来て。」
二つ返事で了承を得た私は翔也を田代さんに任せた後、上の子の姫香(6才)を迎えに
道路二つ挟んだ先にある幼稚園へ向かう。
「ママ、今日お友達のみーちゃんがねぇ、姫ちゃんのママって綺麗だねって言ったんだよ。」
娘の姫香は母親の私が褒められた事で上機嫌になっているようだった。
(・・綺麗か)
今年31歳になる私は高校の先輩だった夫の健と結ばれて姫香と翔也に恵まれ
絵に描いたような無難で穏やかな家庭を築き暮らしてきた。
ただ一つ、夫の健は夜の方が淡泊で翔也が生まれてからは私を求めてくる
回数もめっきり減ってしまい今はもう月に1度あるか無いかといった具合だ。
(今晩当たり久しぶりに誘ってみるかな・・)
家に着き一頻り家事を済ませてから姫香を連れて田代さん宅へ向かう。
「あっ、ママだー!」
田代さん宅のチャイムを鳴らすと顔中を口紅で落書きされた翔也と
同じく化粧品まみれになった陸君が出迎えた。
「あんた達その顔どうしたのよ!」
驚きながら家に上がってみると家中に物が散乱していて
およそ掃除というものを行っていない、いわゆるごみ屋敷状態だった。
(そういえば陸くんってご両親が離婚してお父さんに引き取られたんだっけ)
いつだったか父兄の会で同じクラスの母親達が噂していた気がする。
陸君のパパ、田代俊己は背の高い細マッチョなイケメンで常に母親達の間で
話題になっていたため間接的ながら彼に関する情報は自然と耳に入ってきた。
物事に大雑把で家事なんかも必要以上しないとは聞いていたがこれは少々ひど過ぎる。
「仕方ないわね・・」
私は取りあえず足場確保のためにテーブルの上と周りを整理する事にした。