揺れる身体-9
繁殖期・・。
危険日とはまた違う概念なのだろう。
動物が子孫を残すために設けた本能に身を任せる期間。
今日の昼に南くんのお婆ちゃんに聞いてから妙に心に残る言葉だった。
「ふうっ、うっ、直美!」
「っ、っ」
今ひと月ぶりに健が私の上に乗っかっている。
繁殖期には雌の個体も雄の繁殖中枢を刺激するシグナルを発信するというけど
それなら私の繁殖中枢を活性化させ夫を誘惑する繁殖期に入らせたのは田代俊己?
「ああっ、直美!愛してるよ。」
「っ、わたしも。」
夫である健との愛情に満ちたセックス。
いつもなら最高に気持ちいい筈なのに
どうしてだろう・・
埋まらない空虚さを感じる。
優しい手つきで私の体を撫で、慈しみを含んだキスをする。
バストを揉みながら突起を愛撫し子供みたいに吸い付く。
ちゃんと気持ちいいけど。
本能的に何か物足りない。
(・・・っ!)
ふと田代俊己との結合を思い出した。
なんの蓋然性もなく私に入ってきては
無責任にも濃厚過ぎる生殖材料を膣内に撒き散らそうとした。
家の散らかり具合といいガサツな男である。
(でも・・)
そんないい加減な男のピストンに絆され
私の子宮は鍵を開けてしまったのである。
その時の感覚が一瞬だけ甦り膣内がキュッと窄まった。
「う!あっ!」
「んぅ」
健が私に抱き着いて思いっきり射精した。
「はー、良かったよ直美。なぁ直美、子供もう一人くらい欲しくないか?」
「ふー、わたしも良かったよ。子供はもっとよく考えてみないと。」
コンドームに溜まった赤ちゃんの素を眺めながら私は乗り気でない返事をしてしまった。
(薄くて水っぽい。量も少ない気がする。)
夫のを見ながらどうしても俊己さんの子種と比べてしまう。
あの時浴室の床をゆっくりと這いながら排水口へ向かう大量の黄色い塊。
結局その一部を私の秘部周辺まで辿り着かせてしまう圧倒的な繁殖への執着。
私の子宮口は決してこじ開けられたわけじゃない。
繁殖期に突入させられてしまい自ら明け渡しそうになっていたのだ。
あの瞬間、咄嗟に立ち上がらなければ間違いなく
子宮の中に大量の遺伝子が送り込まれていた。
もしもその状況で私の卵子が排卵されていたらどうなっただろうか。
成す術もなく受精してしまったに違いない。そして今頃着床に向かったかも知れない。
そうしたら、姫香や翔也の兄弟でもあり同時に陸くんの兄弟でもある子供を孕み
元は苦手だった男の子孫繁栄に大きく貢献してしまうことになるのだ。
女体の持つ業の深さと責任の重さ、そして命の神秘に思いを馳せるうちに
汗だくの体がシャワーを所望するのも忘れ深い眠りに落ちていった。
まーた夢をみた。
私のお腹の奥がクローズアップされ
その中で健の精子と俊己さんの精子が私の卵を巡り競争していた。
激しい競合の果てに俊己さんの精が先に私の卵子に辿り着いて頭を突っ込んだが
不思議とその結果をすんなり受け入れる私がいた。