勇気-1
小学六年生にとって、余りに深刻で、刺激的で、詳細な内容の告白だった。後半は、気丈な華もさすがに涙を零しながらの話となった。
教室は私語ひとつなかった。女子の何人かは泣いていた。
亨はずっと俯いたまま、あの時の情景を頭の中で反芻していた。
華の悲鳴、抵抗、号泣…。
引き裂かれるブラウス、デニムのスカートから暴れ舞う張り詰めた太股、剥ぎ取られるスポーツブラ、引き下ろされる純白のパンティ…。
膨らみかけの乳房、生え始めの陰毛…。
日焼けした露出部分と水着に覆われた白い部分のコントラストが鮮やかな華の裸…
あらゆるところを舐められ、揉みしだかれ、悶絶する華。
そして、最初の男に大切なところを突き刺されて発狂したようにのけ反る華。
汗、血、精液…
華に芽生え始めた性欲を、無意味に刺激して喜ぶ邪悪な男達。
何人もの男達から、ありとあらゆる格好で辱めを受ける華。
顔に、乳房に、口の中に、大切なあそこの中に…、何度も何度も発射される華。
そして放心状態で身悶えしながら喘ぐ華。
決して見てはいけないこれらの悍ましいシーンを、注視するだけだった情けない自分自身に、亨は改めて絶望した。
全てを話し終えた華は、涙をハンカチで拭い、お辞儀した。少し恥ずかしげな、でも、どこかスッキリしたような表情だった。
パチパチパチ…
教室に自然と拍手が沸いた。
「華ちゃん、辛かったね…」
「華ちゃんは何も悪くないんだから、忘れよう、こんなこと…」
「華ちゃん、頑張って、これからも応援するからね…」
クラスの女子達が口々に華に声をかけた。
「ありがとう、みんな…」
華は頷いた。その時、
「一つだけ質問があります」
副学級委員の強面の女子、大山里香が手を挙げた。
「亨君に質問です」
「え?…、は、はい…」
亨は立ち上がった。
「亨君が、縛られて身動きが取れなかったのは仕方がなかったかもだけど、どうして目をつぶらなかったの?。どうして華ちゃんの可哀相なところをずっと見ていたの?。華ちゃんは、見ないでって、ずっと言ってたんでしょう?」
「え、あ、あの…、その…」
突然の質問に亨は失語した。
「そうだよ亨、お前、酷いじゃないか」
「お前、そんなにイヤらしい奴だったのか」
「やっぱサイテーな男だな、お前」
亨は男子からも一方的に責められた。
亨はなぜだか腹が立ってきた。詰ってくる級友にではなく、自分自身に…。
思いは爆発した。
「だって、仕方ないじゃないかっ!」
普段は大人しい亨の叫びに教室が凍った。
「仕方ないじゃないか!、そうだろう!、僕は、華ちゃんのことが、好きだったんだ。大好きだったんだっ!。華ちゃんとキスもしたかったし、華ちゃんの裸も見たかった。華ちゃんをギュッっと抱きしめて、華ちゃんと色々なこともやりたかったんだっ!」
どうしようもない怒りが、勇気の欠ける亨に大胆な告白をせしめた。
「そんな、そんな大好きな華ちゃんが、大切な華ちゃんが…、華ちゃんを好きでもなんでもない男達に、キスされたり色々なことをされたりして、裸にされて…。あいつらに華ちゃんの裸を見られるくらいなら、僕が…、華ちゃんを大好きな僕が、よりしっかりと見る方が、絶対いいに決まってるじゃないかっ!。だから僕は、やつらに負けないよう、しっかり華ちゃんを、華ちゃんの裸を、華ちゃんの全てを、必死で見ていたんだっ!」
無茶苦茶な理屈である。しかし、十二歳なりの熱い思いであった。
「わ、分かったわ亨君、責めたりしてゴメン…」
里香がとりなすよう言葉を返した。
「で、亨君はどう思ったの?。華ちゃんの裸を見て、華ちゃんが酷いことをされるのをずっと見て、どう思ったの?」
再び教室が鎮まった。
亨はうなだれながら言葉を探す。
「き、綺麗だった…、華ちゃんの裸…。可愛いオッパイも、ちいさなお尻も、大切なあそこのところも、何もかもが、綺麗だった…」
華は恥ずかしそうに両手で顔を覆った。
亨はあのときのことを思い浮かべて続ける。
「そして羨ましかった…。羨ましかったんだ、奴らが…」
「と、亨…、テメエ、なんてこと言うんだ!」
ヤクザの息子の大星勇太郎が激怒した。
悟も怯まない。
「やつらは許せないけど、羨ましかったんだっ!。だって、そうだろっ…、こんな綺麗な華ちゃんに…、色々なことをするのが、なんであの男達なんだ、なんで僕じゃないんだ、僕ならもっと優しくするのに、僕ならもっと、もっと…、う、ううう…、うおおおお…」
亨は泣き崩れ、拳で何度も床を叩いた。亨は本当に悔しかった。奴らが自分でないことが…。
亨の異様な形相に、また教室が凍りついた。