勇気-2
「亨…、テメエ、華ちゃんのことがそんなに好きだったのか?…」
勇太郎の静かで素朴な問い掛けに、亨は頷いた。
「亨君、分かったわ…。立って」
学級委員の南が近寄って亨を引き起こした。
「で、亨君は、今はどうなの?。今でも華ちゃんのこと、好き?」
亨は小さく頷いた。
「はっきり言って!」
「僕は、今も、華ちゃんのことが、大好きですっ!」
亨は涙まじりの大声で答えた。
「うわあああああ…」
華は顔を真っ赤にして泣き出した。
南が今度は華を介抱するように寄り添った。
「ねえ、華ちゃん。華ちゃんは亨君のこと、どう思ってるの?。恨んでる?、それとも、ひょっとして、亨君のこと好きなの?」
華はこっくりと頷いた。
「華ちゃんがさっき言ってた、処女を捧げたい大好きな人って、亨君だったの?…」
華はまた頷いた。
「だけど、私、あんなことになってしまったから…、あんな恥ずかしいところを見られてしまったから…、私には亨君を好きになる資格がないの…、あううう…」
泣き咽ぶ華にクラスメイトから声援が舞う。
「そんなことないよ、華ちゃん!」
「亨君は今の華ちゃんが好きだっていったじゃん」
「そうだそうだ」
みんなが華を元気づけた。
華は涙を拭いながら亨に近づいて向き合った。
「亨君…」
頬が薄く赤らんでいる。
(華ちゃんはやっぱり綺麗だ…)
亨は心底そう思った。
「亨君、私みたいな女の子でもいの?…」
華の遠慮がちな問い掛けに亨は頭を振った。
「違うよ、華ちゃん…、華ちゃんでないとダメなんだ、僕は…」
自然に言えた自分が少し誇らしかった。少し自信が湧いてきた。
「確かに、華ちゃんの身体は犯された。華ちゃんの身体は逝かされた…。だけど僕には分かる。ずっと見ていた僕には分かるんだ。華ちゃんの心はずっと抵抗していた。だから、華ちゃんは、心の中までは犯されていないんだ!。逝かされていないんだ!」
キース!、キース!、キース!
亨の熱弁に、教室中から催促の声援が飛んだ。
流石に亨は照れ臭かった。が、今の亨には十分な勇気がある。華との距離が縮まった。
華は照れ臭そうに、それでいて覚悟を決めたかのように、瞳を閉じた。
華の両肩を引き寄せる亨の両手はやはり震えていた。
華の胸が自分と接触する。お互いの心拍が重なった。
亨はガクガクと震えながらも、華の甘酸っぱい香りを胸一杯吸い込むと、更に勇気をブーストさせた。
ちゅっ…
重なり合う唇。
柔らかい…、甘い…、美味しい…
興奮の極みに到達した亨は、更に強く華を抱きしめた。
もう躊躇は無い。
華の膨らみかけの乳房の弾力が服を透過して感覚できる。お互いの心臓の激しい鼓動が、引き続き接触面からシンクロする。
今この時よ、永遠なれ!
亨はそう念じながら華の身体を強く抱きしめ、唇を貪り続ける。
バチバチバチバチ…
教室に盛大な拍手が巻き起こった。
(ありがとう、みんな…、ありがとう、華ちゃん…)
こんないいシーンに水を差したのは、アバズレお京こと、清水京子だ。
「やあだあ、亨君…、あそこがムクムクしてるっ!」
亨は、はっとして華から離れ、股間を手で押さえた。確かにズボンのあそこがパンパンに膨らんでいたのだ。
アハハハハハハ!
今度は教室中が爆笑に包まれた。
ドクター孝雄こと扇孝雄が、鞄から小さな紙箱を取りだし、亨に放り投げた。
「ほら亨、これやるよ、受け取れ。ウチはさあ、ほら、産婦人科だから…、プレゼントだ」
六年生も終わり頃になると、それがスキンであることくらい、みんな知っている。
エーッチ、エーッチ、エーッチ!
明るいエールが飛んだ。
華は恥ずかそうに、真っ赤にした顔を両手で覆った。
享はムキになって、
「ば、馬鹿、僕達はまだまだ子供なんだし…、いい加減にしてくれよ!」
と言ったが、貰うべき物はしっかり頂き、ポケット中に押し込んだ。
ガラガラ…
教室の戸が開いた。城之内先生が戻ってきたのだ。
「はいはい、みんな着席。最後の自主ホームルームはどうでしたか?」
「はい先生。先生が出したテーマ、『優しさ』について話し合いました」
そつなく南が答えた。
「そうですか。では、『優しさ』とは何ですか?」
「亨君と華ちゃんのような態度です」
今度は京子がニタリとして答えた。
パチパチパチパチパチ…
拍手の沸く教室。
児童はみんな笑っているが、先生だけはきょとんとしていた。
亨は思った。
答えが違う。
優しさとは、このクラスのみんなのような態度です。
隣の華とアイコンタクトした。
華も笑顔で頷いた。