抱擁-2
『あはっ。そんなことないよ。あたしも詩帆も華帆も普通だって』
『そうね。ところで後ろの可愛らしい子は彩夏さんのお友達かしら?』
少しおっとり気味な華帆センパイが涼子を指摘する。
『あっ。センパイだめですよ。彼女、彩夏の先約が入っていますので』
『ちょっと、千鶴っ』
『先約?へぇ。』
『センパイ、真に受けないでくださいよ。いつもの千鶴のからかいなんですから』
『はぁい』
そうは言っても、華帆センパイは千鶴のいうことを聞いちゃっているみたい。
だって、目がそう言っているんです。
『ほら、華帆、彩夏ちゃんを困らせないの。それじゃあ、あたしたちは行くけど、試合頑張ってね』
『また、部活でお会いしましょう』
『千鶴ちゃん。彩花ちゃん。バイバイ。それから、涼子ちゃん。彩花をよろしくね』
真帆センパイ、詩帆センパイ、それから勝ち誇ったように去っていったのは、華帆センパイでした。
『なんか、嵐のような人たちだね。』
涼子はさっき言われたことを気にしていないみたいで、うれしいような、淋しいようなちょっと複雑な気分。
そんな中、あたしたちの試合が迫った。
あたしたちは大将千鶴の先導の元、コートへと集合する。
応援席には、テニスの女子と、男子たちが集まってきました。
『初戦の相手は、二年生の中でも強豪の六組だから。みんな気合い入れるよ。それから、サーブは絶対に入れるよ。つまらないミスはしないように』
わかった、了解と口々に言う声を聞いて、千鶴は陣を取った。
『三組勝つぞ。』
『オー』
あたしたちは試合のコートへと進んだ。
試合は混戦を極めたが、千鶴の激しい攻撃と、涼子のファインプレーもあって2セットを取ることができた。
『行きます。彩夏さん』
涼子がレシーブをしボールはあたしへ。
あたしはそれをさらに千鶴へとつなぐ。
『OK。千鶴』
そして千鶴の頭上にトスされたボールは彼女の激しいスパイクによって、みごと相手の陣地に叩きつけられていた。
『やったあ。』
あたしたちは互いに駆け寄って喜びを分かち合っていた。
『彩夏さんっ』
その時、あたしは自分の腰に手が回されたことに気付いた。
そしてやわらかな身体に包まれていると感じた。
『やったあ。勝ったね。彩夏さん。あたしのレシーブ繋いでくれてありがとう』 そう、いつもと違ってはしゃぐ涼子姿は、例えば純真な子供、例えば小さな動物。
それをあたしは純粋に可愛らしいと思っただけで、素直に彼女を抱き返す。
『おっと。彩夏。勝利の抱擁ですか?でも、見せびらかすのもちょっとねえ』
『ちょっとねえ。どうして千鶴はそんな風に見るかな』
そういって、あたしは彼女の腕から擦り抜けた。
『まあ、まあ、勝ってよかったってことで、ほら、男子のサッカーを応援に行くよ』
千鶴は次の男子のサッカーを応援しようとグラウンドへ向かい、あたしたちもあとから続いた。
『あっ。うん。』
何故だろう、あたしは思ってしまった。
あと少しだけでも彼女の抱擁を感じたいと。
もっと近くに彼女を感じたいと