夢-1
今、私の部屋は改装の真っ最中で、三年ほど前に亡くなった祖母の部屋を寝室にしている。
一人では広いダブルベッドに寝そべり、昼にも関わらず私はそのベットの上で寝息をたてていた。
夢を見た。
実際のところ、その時は夢なのかどうかさえ定かではなかったが、後から考えてみればそれは夢だったのだと改めて実感した。
夢の中でも私は寝ていた。
同じ部屋、同じダブルベッドで、意識はあるのに眠っていた。夢の中の私は狸寝入りをしていたのかもしれない。
しばらくすると、誰かの声が聞こえてきた。だんだんと近づいてくる。
ガチャッとドアを開ける音がして、キシキシと畳を踏みしめる音に変わった後、
「なんだ、寝ているのか。」
と言う声がした。
懐かしい声だ。
懐かしい、父の声だ。
交通事故が原因で植物状態となり、父の声が聞けなくなってもう何年が経っていただろうか。
夢の中の私は、その声にも何の反応も示すことなく、ただひたすらに眠り続ける。
父は私の頭を一撫でし、静かに部屋を後にした。
撫でられた感触が、何故だかリアルに生身の私に伝わってきたような気がして。
父が去って間もなく、別の誰かがまたドアを開ける音がした。
今度の足音は、父の時よりもゆったりとした足取りでベッドへと近づいてくる。
夢の中の私は僅かに好奇心をかき立てられた。
「…おや…。」
おや、で始まる少し嗄れた穏やかな声。
私はこの声を知っている。
「私の部屋で寝てしまったのかい。お父さんに似て、よく寝る子だねぇ。」
声は私のすぐ隣で聞こえた。
「この子も起こそうかねぇ。…まぁもう少し寝かせてましょか。」
ベッドのスプリングが軋む音と、少しの振動。
右腕に触れる曲がった背中の感触と、忘れかけていた温もり。
「私も眠くなってきた…。どれ、久しぶりに一緒に寝ようかね…」
右腕に温もりを感じながらその声を聞く。
「…おばあちゃ…」
ベッドの上には私一人。
でも、右腕にはまだあの温もりが残っている気がして。