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夢と現の狭間の果てに
【OL/お姉さん 官能小説】

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既視感-9


 「……リ…ちゃ……リカちゃん、ちょっと!」
 「…えっ、え?」

 唐突に声を掛けられて私は意識を取り戻す。
 目の前には克彦さん…じゃなくて、文香さんが心配そうな顔で私を覗き込んでいた。

 「もう、いきなりどっか飛ばないでよ」
 「す、すいません」

 気付くと時間は30分ほど経っていたみたい。お昼時のUrth caffe店内。時間の流れが分からない程長い時間妄想に耽っていたようだ。勿論30分というのはこのお店に来てからの時間で、文香さんを目の前にして30分間意識を飛ばしていた訳ではない。

 「樋口くんのこと考えてたんでしょ?好きなら正直に言えばいいのに」

 …………ん?あ、そうか。そういう話ししてたんだった。

 「だから、違いますってば!」

 妄想だ。無駄にリアルな私の妄想が爆発した。
 ほんとにダメだこれ。この癖治さないとダメだ。よりによって樋口を妄想のネタにするとか…。妄想の相手なら誰でもいいのか私は。

 「あーもう!」
 「ちょ、リカちゃん、静かに」

 テーブルに頭を突っ伏す。恥ずかし過ぎて死にそう。穴があったら入りたい。いや、私は穴側だから穴に入れられたい方なんだけども…

 「だからそっちじゃない!」
 「リカちゃん!?え?なに?誰と話してんの!?」

 重症だ。日常生活にまで支障をきたしている。仕事に集中しよう。

 「文香さん仕事しましょう!」
 「え?待って、脈絡が無い」
 「いいから仕事しましょう!一刻も早く!」
 「そんな急ぎの仕事あったっけ?」
 「〜〜っ、私先に行きますから!」
 「あ、ちょっと待ってよリカちゃん!」

 急いでパンケーキを貪る文香さんを置いて私は店を出た。仕事仕事、私は仕事に生きる。そう決めて私は早足になってオフィスへと向かった。


………
………………
………………………


 「お先ー」

 定時を過ぎると同時に樋口は私に声も掛けずそそくさと帰った。カラオケの約束があった筈だけど、諦めたのかな?
 内心ホッとして私も帰り支度をしているとらLIMEアプリのメッセージが届いた。そこにはカラオケ店の名前とその場所、時間だけが書かれている。やっぱり諦めてはいなかった。
 一応約束は約束だし、行かなかったらまた明日酷いセクハラ被害に合いそうだから仕方なく私は行くことにした。

 ──────あれ?

 なんか、既視感(デジャヴュ)を覚える。何か引っ掛かりを感じながら、でも私はバッグを持って「お疲れ様でーす」と皆に声を掛けるとオフィスを後にした。


          ※


 カラオケ屋の前では既に彼が待っていて、私を見つけると爽やかな笑顔で私に向けて手を振ってきた。
 なんか、なんだろ、、デートの待ち合わせみたい…。恋人の居る人はこうして仕事終わりに待ち合わせてデートしてるんだろうなぁとぼんやり思う。私の場合は相手が樋口という事であまり望ましく無いのだけど…。
 ああでも、そうだ。私はこの樋口相手にエッチする妄想してたんだ。思い出したら顔が真っ赤になるほど恥ずかしくなった。
 私は赤くなった顔を悟られまいと平然を装い、落ち着いて樋口の近くまで歩み寄った。
 目の前まで行くと樋口は然りげ無く私の肩に腕を回す。ほんとにこの男は馴れ馴れしい──────……え?


 ──────ちょっと待って、これって私の……


 樋口から色気のある甘い香りが私の鼻を擽った。


 ──────これ、ムスク…


 ドクンと胸が鳴る。
 冷たい汗が背中を伝う。
 言い知れない不安感。
 度重なる不可解な符号の一致。
 一度読んだ本を読み直すような感覚。


 私は、 “この話” の “結末” を “知って” いる 。


 高鳴る胸の動悸が私の呼吸をも乱していく。
 赤くなった顔を伏せる私もまた、筋書(シナリオ)通りの形で──────

 ──────そして、

 顔を寄せた樋口は、その整った顔で満面の笑みを浮かべて妖しく口を開いた。



「今日は “とことん” 楽しもうね、サクちゃん」






episode2 『夢と現の狭間の果てに』 完



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