既視感-5
「サクちゃん、明日休みだよね?今夜ホテル行かない?夜通しセックスしようよ」
馬鹿じゃない?こんなの一回きりだから。どうせ貴方も遊びのつもりなんでしょ?
「俺さ、ずっとサクちゃんとこうなりたかったんだよね」
その台詞を何人の女に言ってんのか。私もその中の一人ってだけでしょうに。
「マジで好きなんだよ、サクちゃん」
やめて。やめてよ。そんな事今言うの。ただ性欲に任せてエッチしてればいいじゃん。私もただの遊びって割り切るんだから。
だから一回だけ。一回だけの関係。
「…リカ、こっち見て」
勝手に名前呼ぶな。
「リカ」
やめて。
「リカ」
…なに?そんな真面目な顔なんかして私を見つめてんの?動かしてよ。腰掴んでいっぱい突けばいいでしょ。身体だけを求めればいいじゃん。あんたらしくないよその顔。
繋がったままだけど、腰の動きは止まっていて荒々しい二人の呼吸音だけが響く。お互いがお互いの目を見つめている。やがて樋口の顔だけが私に近付いてきた。
拒絶する様に顔を背ければいい。でも、それどころか私は迫りくる彼の顔を見つつ、ゆっくりと瞳を閉じていた。
「ん…」
軽く触れるくらいのライトキス。すぐに離れて目を開く。樋口も私を見つめている。
頬を撫でられて、また顔が近付いて今度はしっかりと唇を押し当てたプレッシャーキスからの、洋画などでよく観る下唇や上唇を唇で食む(はむ)シングルリップキス。そして続け様にディープキス…と、やけに情熱的なキスの嵐。
やっちゃった。樋口なんかと。でも唇を食まれて舌が絡んできて、頭がぽーっとしてくる。なに蕩けてんの私、こんな奴に。
彼の腰がゆっくりと動き出す。好きでもない男との行為がまた始まる。
「んっ…ふぁっ、あんっ」
雌の声。心の奥底で燻っていた欲が解き放たれていく。
「好きだよ、リカ」
左の乳房を揉まれて下からは突き上げられて、甘い言葉を囁かれて、もう私はこの男の所有物にでもなった気持ちにさせられている。
「きら…い、私はあんたなんか…んっ、あっん!きらい…きらいっ…」
気持ちだけは流されないように、そうやって言うことで理性をしっかりと保つように。
嫌いという意思を汲み取ってもらえず、樋口の動きは激しさを増していく。ここがカラオケ店とかそういう事はどうでもいいみたい。
「あっ、ちょっと」
ソファに寝転がされて、私の上に覆い被さる樋口。間髪入れずに挿入される。ぬるっと、何の抵抗もなくペニスが侵入り込んで、強く打ちつけられる。
バンバンと早く強く、より早く強く、速度と勢いが増していく。これ、レイプされてるみたい。
耐え切れずに彼の背中へ腕を回してジャケットを掴む。濡れる、やばい。凄い…いきなりこんな激しいの無理。
「リカ、可愛いよ」
「いやっ、ああっあん!だめ、嫌い…あんたなんか、嫌いなんだから…」
「好きだよ、リカ。好きだよ」
「やめ…てよ、いや、、んぅ、待っ…あっ!きらい…きら……」
「やばい、好き過ぎてやばい。リカ、リカ」
好き好き言うな馬鹿。その気にさせるな。
「好きなんだよ本当に」
そんな、がむしゃらに腰を振って愛の告白とか…高校生じゃあるまいし…。
「気持ちいいよリカ。好きだよリカ」
うる、さい。気安く名前呼ぶな…。あんたはもっとドライな奴で、ただの女ったらしで…そういう奴でいればいいでしょ。
あ、待ってこれ…。浮いちゃう。腰が勝手に浮いちゃう。何も考えられなくなって、ただこの膣内が男で埋まってる幸福感が………。
「…好き、大好き!」
樋口にしがみついて私は叫んでいる。精神が崩壊してる。ただ打ち込まれてる男の肉を素直に受け入れて、理性だけどこかに飛んでいった。
「あああっ、イくよリカ!」
「んっんっ、あっああ!」
私は言葉を発する余力も無い。ただただ何度も頷いて男の射精を求めている。種付けされることを…心から……。
「くぅっ!」
遠慮なんて無い。半ばレイプのようなセックスは勿論、中出しで終わりを迎える。樋口は私の奥に精を放っている。
恍惚感と疲労感が全身に広がって、心地良い後味を残して脱力していく。
「リカ、愛してるよ」
力の抜けた私はそして、事後の甘いキスを無感情に受けながら余韻に浸ることしかできなかった。