逮捕-3
悠子は、
『篠山、了解です。』
と返していると緒方から、
『緒方です、逮捕開始します。』
『逮捕開始‼』
と連絡が有る。悠子は、
『篠山、了解。』
『B班、突入せよ!』
『武装に注意‼』
と命令する。瀬戸から、
『B班、了解!』
『武装に注意して突入します。』
と返答する。悠子はインカムのスイッチを切るや否やスマホを取り出し、
『篠山です。今、逮捕開始しました。』
『強制捜査開始して下さい。』
『繰り返します。強制捜査開始願います。』
と報告する。ハンディカムの画面を見るとアパートの管理会社の制服を着た捜査官がアジトの部屋をノックする。近くに捜査官達の姿が見える。
アジトのドアが少し開く、管理会社の制服を着た捜査官が弁当の包みを見せ説明する。今日のイベントの弁当が余ったので渡しに来た設定だった。
アジトのメンバーが笑いながら、ドアを開けると捜査官達がドアを掴み中に強引に入っていく。悠子はそれを見届け頷くと、
『行くわ。』
と櫻井に言う。櫻井は心配そうに、
『気を付けろ。』
と言った。悠子は頷いて玄関に向かいながら、
【セックスの時以外はまともなのよね。】
と櫻井の事を思いつつ、状況に似合わない微笑みを浮かべた。
悠子が櫻井の部屋を出て下の道路をみる。するとアパートの入り口を挟んで2台づつ停まっている車両の進行方向を前後と横を塞ぐ形で捜査車両やパトカーが赤色灯を回転させ停車している。
アパートの前の方が菅原組関係の車両と見られ組対課の捜査官が組員らしき男達を拘束している。
アパートの手前の車が詐欺組織のメンバー達で夫や山川の姿が見える。やはり男達を拘束している。
防弾盾を持っている捜査官や制服警官の姿が複数見られる。念の為、今回の逮捕に備えて結構な数を準備していた。
見た所、特に応援の菅原組や詐欺組織の抵抗は無く無事拘束出来た様だ。悠子はその様子にホッとした。
だがその瞬間、複数の銃声がする。アパートの敷地内からだった。悠子は慌てて下に向かう為階段にいく。また発砲音がする、銃撃戦になっている模様だ。
夫が部下達に指示して銃声の方へ向かう、山川が後に続く。悠子が階段を降り夫達が向かったアパートの敷地の奥の方に行こうとした時インカムから、
『緒方より、被疑者3人がアパート敷地の奥に逃走、3人共銃器で武装しています。』
『応援を至急求む!繰り返す、応援要請!応援要請!』
と緒方から連絡が入る。悠子は走ってアパート敷地の奥に向かう。向かう時に拘束された神木と城田が居たが逮捕されて落ち込んでる様子も無く、平然とした態度をしていた。
アパートの敷地の奥の塀を捜査官達が乗り越えている。悠子も塀に着くと乗り越えていく。部下が居たので、
『被疑者達は、何処?』
と聞くと、
『この先の民家に逃げ立て篭っている様です。』
『緒方さん達がその民家を見張っています。』
と報告する。悠子は頷き、進んでいく。程なく捜査官達が複数いて、民家の入り口付近に防弾盾を持ち見張っている。
その民家は、少し高いブロック塀が家の周りを取り囲み、塀の内側に塀より高い樹々がやはり取り囲んでいる。
敷地は結構広く、入り口から見ただけでも色んな種類の花々や樹木が植えられてる様だ。家もかなり古いが大きな木造建築だった。
悠子は緒方を見つけ声を掛ける、
『緒方さん、状況は?』
と聞く。緒方は、
『被疑者3名がこの家に入って行きました。』
『1人、我々の発砲で負傷している為遠くに行けなかった様です。』
と報告する。悠子が頷き、
『こちらの負傷者は?』
『撃たれたりしていないの?』
と聞く。緒方は、
『はい、誰も撃たれたり負傷していません。』
と報告する。悠子はホッとした。
『所轄に包囲の応援を要請しましょう。』
と緒方に言う。緒方は頷き、
『報告が遅れました、篠山課長と篠山課長の部下の山川主任、山田が中に入りました。』
と言うと悠子が思わず、
『どうして‼』
と大きい声を出し慌てて口を閉じる。緒方が、
『人質の有無等、中の様子を知る為とかで。』
『自分達以外は同士打ちの可能性がある為入らない様に言ったとの事です。』
『私が到着した時は、既に中に入った後でした。』
と申し訳無さそうに報告する。悠子は唸り、
『先ず、応援を頼むわ。』
と言い所轄の指揮官に、
『被疑者3名が銃器で武装し、アパート敷地の奥の塀から2軒目の民家に立て篭っています。』
『その民家の包囲に協力をお願いしたい。』
と応援を要請する。指揮官が、
『了解です。すぐにいかせます。』
と返事が来る。悠子は、
『御協力感謝します。』
と返した。緒方が、
『篠山課長をみんなで止めたらしいのですが、人質の有無だけでもと。』
『篠山課長が1人で入ろうとした所、山川主任が被疑者達に出くわした場合3対1では不利になるからと付いて行った様です。』
と説明した。悠子は、
【山川さんは夫が主任の頃から影の様に付き従って来た、夫を1人で行かせたく無かったのだろう。】
と山川に申し訳無い気がした。緒方が続けて、
『山田が篠山課長に連れて行ってくれと頭を下げ頼み込んだそうです。ご主人は根負けして同意したそうです。』
『連中が逃げる時、山田の所を突破して逃げたのでそれで責任を感じたのだと思います。』
『人質事件になったら大変な事になると他の者に言っていたそうです。』
と言う。