悦ぶカラダ-1
アパートのアジトの逮捕任務当日、悠子は寝覚めがとても良かった。眠り始めたのは深夜だったが意外とぐっすり眠れたのだ。
昨晩組対課の知り合いから直接連絡が有り、2箇所の新たな詐欺グループのアジトを発見したと言う。
その後、深夜近くに他の捜査課の主任より新たな〈宅急便〉を見つけたと連絡が入る。
それぞれ、所轄の警察の応援を仰ぎ急遽強制捜査の体勢が組まれた模様だ。課長にそれを報告すると、
『連中に手柄をくれてやった様な物だ。』
と呟き、組対課の成果に面白く無い様だ。悠子は、
『私の組対課の知り合いによれば、今回の成果にかなり喜んでおり、合同捜査に参加出来た事を感謝している様です。』
『貸しを作れたのでは?』
と答える。課長は、
『連中は貸しと思って無いかも知れないぞ。』
と面白くなさそうに言い、話を終える。悠子は苦笑し、
【かなり以前に手柄を横取りされたと言っていた。】
【まだ、相当根に持っているな。】
と思った。そんな事があり就寝時間は深夜過ぎだったが目を閉じると逮捕の段取りや人員配置の事が頭に浮かび、全然寝れない。
夫は出張中で隣には居ない。朝の支度の事を、櫻井の部屋には私服で行き、仕事着等はバックに詰めて持って行こうなどと考える。
そして、私服の上下の組み合わせを考えている内に自然と寝ていた。
早朝7時からのミーティングに捜査課全員が集まる。逮捕は11時以降だと思われるが念の為に早めに現場で待機をするのだ。
逮捕の段取りを全員で確認していく、各班の班長が指示を受けて行う事、起こり得る事態の対処を述べていく。悠子は頷きながらそれらを見守る。
段取りの確認が終わると悠子はみんなを見廻し、
『みんなで練った計画通りの段取りで逮捕するわ。』
『何度も地図でのシュミレーションでもやったけど、想定外の事も起こり得る。』
『その場合、臨機応変に対応して!』
『これだけは、頭に入れて!決して無理をしない!!危険は犯さないで!!』
と言うと全員、
『はい!』
と返事する。悠子は頷き、
『仮に被疑者達に逃げられても所轄の応援で包囲網は出来ている。』
『突破、逃亡されても慌てる事は無い様に。包囲網を狭めて再度逮捕すれば良いわ。』
と諭す様に言う。みんな頷き、
『はい。』
『解りました。』
『了解です。』
と各々返答する。悠子は頷き、
『全員、防弾チョッキ着用と拳銃携帯を命じます。』
と命令する。全員、大きな声で返事をして装備室に向かう。装備室で防弾チョッキ着用し、声に出し確認しながら拳銃を携帯する。
悠子は、準備が出来た班から現場に出向き待機を命じる。悠子は、全員の出動を見届けると課長室に行き任務開始を報告する。
課長は頷き、
『吉報と全員の無事帰還を願う。』
と短く話す。悠子はお辞儀をして課長室を出た。悠子は、ロッカーに行きバックを取り出すと装備室で自分のサイズの防弾チョッキと安全装置を確認しホルスターに固定した自分用の拳銃を入れる。
そして、外に出ると近くのショッピングモールのトイレでバックから取り出した私服に着替え、仕事着をバックに入れる。
ショッピングモールを出てタクシーを拾い現場のアパートの近くで降りる。悠子は時計をチラッと見て手前のアパートの櫻井の部屋に向かう為に階段を登った。
櫻井の部屋の前に立ち、いつもの様に軽くノックするとすぐにドアが開いた。悠子は櫻井に会釈し部屋の中に入ると他人行儀に、
『お世話になります。』
と挨拶する。櫻井も、
『どうも。』
といつもの様に返す。悠子は、張り込み部屋を軽くノックする。今日も変更して6畳の部屋を張り込み用として使っている。部屋の中から返事が有り、悠子は引き戸を開けて入る。
応援の捜査官と挨拶を交わし、簡単な引き継ぎを済ませる。応援の捜査官が櫻井に挨拶し櫻井も返すと部屋を出た。
櫻井は捜査官が部屋を出ると6畳の張り込み部屋に行く。悠子がアーミー色のふくらはぎまで丈の有るロングシャツワンピースの帯を解いていた。
悠子がボタンを外して、その薄手のロングコートの様な服を脱ぐと左脇に拳銃の入ったホルスターが見える。櫻井はビックリした様に拳銃を見ている。
櫻井が拳銃を見ながら、
『撃ち合いになるのか?』
と聞く。悠子は櫻井に警戒して貰い勝手な事をしない様に、
『被疑者達が銃で武装しているかも知れないの。』
と打ち明ける。櫻井は驚いた様だ。悠子は、バックを開けて防弾チョッキを取り出す。櫻井は目敏くそれに気付き、
『防弾用の物か?』
と聞きながら勝手に着ようとする。悠子が慌てて、
『女性用だから、あなたには小さいわ。』
と言い取り上げる。そして、仕事着の黒いスーツと今日は動く事を考え黒いズボン、白いワイシャツを取り出す。
櫻井は、組み立て式の衣装ケースからハンガーを持って来る。悠子は、
『すぐに着替えるから必要無いわ。』
と断わるが櫻井は、
『まだ着替えるのは早い。』
とニヤリとする。そして悠子の仕事着の黒のスーツ、ズボンを一緒にハンガーに掛け襖の仕切りの上の方に掛ける。
ワイシャツも別のハンガーに掛け、防弾チョッキも三つ目のハンガーに掛けて行く。四つ目のハンガーを仕切りの上に掛け、
『その拳銃は、あんたがこれに掛けろ。』
と言う。悠子は、
『着替えて、いつでもすぐに動ける様にしないといけないの。』
と諭す様に言う。櫻井は、
『その時は、俺も手伝ってやる。』
『問題無い。』
『早く掛けろ。』
と言う。