アナルヴァージン喪失 (5)-1
《パパ、お昼ごはんちゃんと食べた?》
《まだだよ。ゆきのデートが気になっちゃって。ゆきは?》
《こっちもこれから》
《あのあとまたエッチしたの?》
《うん、もう一回した》
《あー嫉妬しちゃう! でもこうやってマメに連絡くれて嬉しいよ!》
《だってパパに嫉妬してほしいんだもん!》
《帰ってきたゆきとするのが待ち遠しい!》
《ゆきも楽しみ! また寝ちゃうかもしれないけど楽しみなのは本当!》
《ねぇゆき。ちょっと考えてたんだけど、今日か明日アナルセックスしようよ》
《なに? いきなり 笑》
《子どもたちもいないし冬休みだし今しかないと思って!》
《そうだけど……》
《だから今日ぜったいFさんとしちゃだめだからね!》
《実はもうさっきしちゃったんだー(桃の絵文字)》
《冗談でもやめて、そういうの(青ざめた顔)》
《うふふ》
《あ、冗談なんだよね? いちおう聞くけど》
《冗談だよー》
《初めては俺とだからね!》
《うん、わかってる(ハート)》
《ゆき、あのさ》
《?》
《ほんとにしてないよね?》
《してるわけないでしょ!》
《だよね。ところでさ》
《今度はなに?》
《またサービスショットお願いします》
《もうありません》
《えー!? 前回の最高だったからまた欲しい! お願いします》
《あ! Fくんが『一緒にシャワー入っていい?』だって!》
イヤホンから「はーい、ちょっと待ってて!」というゆきの弾んだ声がする。
「なにしてるのー?」「いろいろー!」「見たい!」「だーめ!」「なんでー?」「女性にはお風呂前の身支度がいろいろあるんですー!」「だからそれを見たい!」「だからだーめ!」「けちー!」「いい子だからちょっと待っててねー、ダーリン♪」
ゆきはFと扉越しに仲良く会話を交わしつつ、私にもメッセージを送ってきた。
《もう返事できない。じゃあね》
一方的にメッセージを打ち切られ、不倫相手を「ダーリン」と呼び、アナルセックスしていないと不誠実な嘘をつく妻。ショックを受けていると、画像が送られてきた。顔だけの普通の写真だったが、シャワーのためか、髪をアップにしているのがいかにも「男とラブホテルで過ごしてます」という感じがして、これはこれでよい。
しかもよく見ると、セクシーなうなじの向こうに鏡が見えて、自撮りするゆきの全裸の後ろ姿が映り込んでいるではないか。きっと慌てて確認もせず送ってくれたのだろう。すらりと格好いいバックショット。くびれた腰から大きな尻、むちむちの太ももへと続く曲線が艶めかしい。股間には陰毛もわずかに見える。
意図せぬいやらしさとは対照的に、十五年前から変わることのない、はにかんだ表情がまた愛らしい。たった今アナルヴァージンを喪失したばかりの三十八歳の人妻にはとても見えない。夫を裏切ってなおこの表情ができるのだから、ゆきにとって私を騙すことなどわけもないのだろう。
そう思うと急に切なさがこみ上げてきた。
この尻肉の奥に隠された妻の可憐な窄まりには、Fのペニスが、たしかに突き刺さっていたのだ。このはにかみ顔のゆきの肛門にも、おそらくFの精液がまだたっぷり入っている。ゆきはもうアナル処女ではない。愛する妻が、私ではない別の男とアナルセックスしてしまったという深刻な現実。
Fと楽しげに会話しながらバスルームに入るゆき。扉がパタンと閉まりシャワーの音が聞こえ始めると、会話の中身はわからなくなった。それでいい。長年付き合っただけあって、二人の会話はまるで本当の夫婦のようでもあり恋人のようでもあり、私の知らない「もうひとつの素のゆき」を見るようで辛いのだ。
ゆきは私に対してはきっと「初めて」のような顔をして、アナルセックスをさせてくれることだろう。「一生の思い出だね」「初めてがパパで嬉しい」などといって可愛らしくキスしてくれるに違いない。そのたびに、私の胸にはチクリと痛みが走るのだ。同じ痛みをゆきは感じてくれるだろうか。
夫婦といえども秘密のひとつやふたつあってもいい。いや、寝取られマゾとしては「あったほうがいい」。しかしそれは、裏切られても苦しくないということではなく、むしろ逆である。今後、ゆきの顔を見るたびに、「私を裏切り他の男にアナルヴァージンを捧げた妻」「アナルに極太他人棒をぶち込まれよだれを垂らしてよがり狂っていた妻」「肛門に射精されブリブリ放屁していた妻」がフラッシュバックし、私を苛むことだろう。
私の股間は痛いほど張り詰めていた。
シャワーの音に、女の喘ぎ声が混じるようになった。
甘えた声、切羽詰まった声、泣いてなにかを懇願する声、ジュッポジュッポとなにかを吸引する音、そして媚びた照れ笑い。私の妻が、薄汚い女の武器を最大限に使って男を楽しませている。
ゆきは男の気を惹くためにわざとあざとく振る舞うことがある。最近まで、これは私にだけ見せてくれる顔だと思っていたので「なんて可愛いんだろう」と無邪気に喜んでいたのだが、なんのことはない、ZにもFにも同じ態度だった。ベッドの上ではこうなってしまう女なのだ。女子大生当時はこれを天然で、しかも普段からやってしまっていたために同性の友人から孤立したのではないかと、私は密かに睨んでいる。
シャワーが止まると、肉と肉がぶつかり合う生々しい音が聞こえてきた。
パシン、「ぁんっ!」
パシン、「ぁんっ!」
パシン、「んんっ!」
パシン、「はぅんっ!」
尻を叩かれているのか、それとも後背位でセックスしているのかという疑問はすぐに解けた。Fが「ほらゆき。何してるのか説明してみて?」と問いかけたからだ。