『ボクの夏休み〜後編〜』-2
どうしていいかわからないといった顔でうろたえる彼女に、今朝見つけた絵日記を見せ、全てを説明した。
やはり彼女は驚いて、何も覚えていないと申し訳なさそうに言った。
そしてその目をそっと伏せて、口を開いた。
「ご存知の通り、私の実家はあの田舎にあるんです。でも大学に入る時、田舎を嫌がって都内の学校へ行き、この会社に入りました。でも…やっぱり東京はダメみたいです、私の性に合わないみたい。」
「………。」
でも家を飛び出したからには頑張ります、と一言加えて頭を下げ、彼女は出ていこうとする。
「…金子くん!」
気が付けば、俺は彼女を呼び止めていた。
「俺も…君と会った年以来、あの別荘には行ってなくてね…。」
一体俺は、何を言おうとしているのだろう。
自分でも分からなかった。
「だからいつか…。」
彼女が驚いているのが分かった。
俺は、『夏休み』を期待しているのだろうか。
それも、絵日記に書いてあったというだけの、今は社員であるという彼女との。
でも、それでも構わない。
「…嬉しいです。」
「ぇ……。」
「私も、少しの間でいいから帰りたいと思ってましたから。」
社会人ってこんなに大変なんですね、と微笑む彼女。
俺は…いつか、またあの夏休みが体験出来ればいいと素直に思う。
夏休みなど、いらないと思っていた。
自分には、無駄なだけだと。
けれど、あの年の夏休みを語る昔の自分の絵日記は、輝き続けている。
今の俺が忘れていたモノを、確実に持っている。
あの時にしてきた落とし物を、俺と彼女は拾えるだろうか。
オフィスから、狭い夕焼けを見上げた。
「綺麗ですね…。」
と彼女が言ったので、俺は黙って頷いた。