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だいたい世の中 そう甘くはないわけで むしろこんな風に欺瞞が渦巻いているわけで
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だいたい世の中 そう甘くはないわけで むしろこんな風に欺瞞が渦巻いているわけで-2

 「こら!起きなさい!」
 母が、私の布団を引っぺがしにかかる。私はのろのろと目を開けると、
 「もう起きたよ。すぐに下に行く」
 と、ぐしゃぐしゃになった頭をかいた。
 彼女は、もうっとため息をつきながら、
 「早くしなくちゃ。本当に遅れるからね」
 「うん。大丈夫」
 「じゃあ、下に行ってるわよ……」
 「うん」
 「正弘」
 「……」
 ふと、それが誰の名前なのか考えてしまった。
 私−僕の、名前だった。野村正弘。それが僕の本名。そして、性別は男。自分で自分にインプットさせるように、頭の中でぶつぶつと呟く。
 僕はベッドから床へ足をつくと、ゆっくりと立ち上がった。体中がだるい。
 ふと、ユメジはまだ眠っているのだろうかという思いがこめかみをかすめ、僕はパソコンの方を振り返った。
 きっと彼は、僕を女の子だと勘違いしているだろう。でも、もしも僕がネットで初めから男だと言っていたら、果たして彼は僕を相手にしてくれていただろうか。多分、答えはNOだ。僕が女の子を演じているから、相手になってくれているのだろう。でも、それでいいと僕は思う。どうせ文字だけの付き合いなのだ。名前を女の子にして、メールの文字の色をピンクなんかにすれば、もうその時点で僕は女の子になる。現実では、みんなからいじられる気弱なデブが、こっちの世界ではみんなが話し掛けるアイドルなのだ。考えてみたら、随分と滑稽な話だと苦笑いが漏れる。
 僕は部屋のドアを空けると、もう一度、振り返った。
 「また今夜ね、ユメジ」


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