隠れ家に-1
『着の身着のまま、返る場所もない状態では困るだろうから、俺の隠れ家に来るか?』
『隠れ家?』
『家族には内緒で、マンションを借りてるんだ。誰もその存在は知らないから、身を隠すには絶好の場所だぞ。』
『いいんですか?』
『構わないよ。』
野田は美和子を隠れ家のマンションに連れて行った。
部屋に入り、すぐにお風呂を沸かす。
『着替えは男ものしかないけど、これで我慢してくれ。』
『ありがとうございます。』
『美和子ちゃんが風呂に入っている間、とりあえず必要なものを買ってくる。』
そう言って、部屋を出ていった。
美和子は、暖かいお風呂に入る。
ホッとする瞬間でもある。
先のことを何も考えず、とりあえず旦那から逃げてきた。
男にとっては、単なる暴力でも、女性には死の恐怖を覚えることもある。
着替えなんてもちろん、スマホさえ持たずに、出てきた。
唯一、財布を持って来たが、旦那がお金を持ち出すので、入っていたのは、中学生のお小遣い程度の金額だった。
幸い、昔の職場の先輩が、見つけてくれた。
今、その先輩が借りている、隠れ家的なマンションに来ている。
1時間ほどで、野田が帰ってきた。
とりあえず応急処置的に、ブラジャー、パンティ、シャツ、スカート、サンダルを買ってきた。
そして、携帯ショップで、スマホを1台契約してきた。
これは、野田の名義である。
『すぐに着替えて。』
と、野田に言われる。
美和子は、まず下着をつける。
ブラジャーのサイズは、ぴったりである。
A70というサイズで、おっぱいの小さい美和子に、ぴったりのサイズだった。
『なんでサイズを知ってたんだろう。』
着替えを終えて、野田の車に乗って、買い物に出る。
車で30分ほどのところにある、ショッピングセンターまで来た。
美和子に、
『服がその一着だけでは足りないだろうから、下着や化粧品、洗顔具など、必要な分を好きなだけ買っておいで。』
と言って、お金を渡す。
『ありがとうございます。』
と言って、美和子はショッピングセンターの中に入って行った。
30分ちょっとで、戻ってくる美和子。
車に乗り込み、
『これだけ買いました。』
と言って、商品とレシートを見せ、お釣りを渡してくる。
基本、美和子は真面目で几帳面な性格である。
それから、再度、マンションに戻る。
『当面、ここで生活してもらって構わないからね。』
『ありがとうございます、本当に助かります。』
テーブルの上に、お金を置いて、
『これで食材などを買って、自炊するなり食べに出るなり、好きにしていいから。』
と、野田が言う。
スマホの設定をして、
『何かあったら、スマホに連絡をくれ。』
と言って、野田は自宅に帰って行った。
とりあえず、美和子は、野田に、
『本当にありがとございました。何から何まで、凄く助かりました。』
と、メールを入れた。
2日後、野田は美和子にメールを入れた。
『今から、そっちに行っても良いか?』
『はい。良いも何も、先輩の家ですよ。』
と、返事がくる。